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あなたはどっち!選択に関わる個人主義と集団主義の違い
「全ての選択を自分の意思で決定しよう!」
現代ではこの考えを推奨するカリスマ的な人や企業家などが増えてきているように感じます。
ですが、選択に期待することは国や文化によって異なることを提唱しているのがコロンビア大のシーナ・アイエンガー教授です。
国によって文化の違いは様々ですが、選択に置いては大きく2つに分けることができます。
個人主義と集団主義です。
あなたが個人主義なのか集団主義なのかによって選択に期待する傾向や、作業へのモチベーションの現れ方は変わります。
選択についてのテクニックを知る前に、自分が個人主義、集団主義どちらの傾向が強いのか考えてみることがおすすめです。

どちらが優れているということではなく、まずは違いを理解してみましょう。
なぜなら日本には個人主義者と集団主義者が混在しているからです。
世界各国の個人主義傾向
この研究分野における第一人者ヘールト・ホフステードは各国の個人主義の度合いをはかる指標を開発し、100点満点で国々の個人主義傾向を発表しています。
その結果もっとも個人主義指標のスコアが高いのがアメリカの91点で、その他の国々は
- オーストラリア90点
- イギリス89点
- 西ヨーロッパは60〜80点の範囲
- ロシア39点
- 中国を含むアジア数カ国は20点代

一番集団主義傾向が強いのはグアテマラの6点でした。
後続の研究でも、世界で同じようなパターンが一貫して確認されているようです。
そして日本はというと…なんと46点!

アメリカ文化と距離が近いためか、アジア内でも個人主義傾向が強く、個人主義と集団主義がほとんど半々になっているようです。
文化心理学者のハーリー・トリアンディスの著書「個人主義と集団主義」の中でこの二つの主義を定義しているようなのでそれをもとに解説します。
個人主義の特徴
アメリカをはじめ、個人主義思考の強い社会に育った人は、選択を行う際、何よりも「自分」に焦点を置くように教えられます。
トリアンディスの定義によると個人主義は
「主として自分の好みや欲求、権利、他者との間で結んだ契約に動機づけられ、他者の目標よりも、自分自身の目標を優先させる人々」
としています。
個人主義文化では、自分自身のことを
- 自分の興味
- 性格特性
- 行動
などから捉えるようになります。

例えば
「私は読書好きだ」とか「私は親切な人間だ」といった感じです。
個人主義の選択捉え方
- 個人主義思想の中心にあるのは「選択」=「機会」と捉える考えです。
- 自ら人生の道を切り開くことが重要と考え、それを妨げるものは不当に感じる傾向があるようです。

個人主義は17世紀ごろの比較的新しい概念で、現代的な個人主義の考えは19世紀の哲学者にして経済学者のジョン・スチュアート・ミルの言葉に代表されます。
「本物の自由は、他者の自由を奪ったり、自由を得ようとする他者の努力を妨げずに、自分なりの方法で自らの利益を追求する自由のこと」
「人間は他者に善だと思われる生活を互いに強制するよりも、自分にとって善だと思われる生活を互いに許し合うことで、より大きなものを得る」
集団主義の特徴
アジアに多い集団主義社会に属する人達は、選択を行う際「わたしたち」を優先するように教えられます。
さらに自分というものを
- 家族
- 職場
- 村や国
など、主に自分が所属する集団との関係性で捉える傾向があります。

トリアンディスの定義による集団主義は
「主に集団の規範や、集団から課された義務に動機付けられ、集団の成員との関係性を重視し、個人的な目標よりも、集団の目標を優先させることを厭(いと)わない人々」
としています。
集団主義の特徴
- 集団全体の必要が満たされて初めて、個人が幸せになれると考える傾向がある
- 個人の特徴だけでなく、自分が所属する集団との関係を通じて自分を理解する
- 個人は無力でないにしても、集団の義務を重視し「仕方がない」と言う考え方も強い
- 自分の意思決定より運命のような物を重んじる場合もあり、義務と宿命を重視する文化

人間が社会を作り始めた初期の狩猟採集社会は、互いの面倒を見ることで全員の生存確率が高まるため集団主義は歴史的に長い間一般的な行動規範でした。
個人主義と集団主義の選択がモチベーションに及ぼす影響
個人主義と集団主義の選択に対する期待の違い、モチベーションの差を示した興味深い実験が行われています。
コロンビア大教授のシーナ・アイエンガー教授がスタンフォード大学の大学院生時代に
アングロ(イギリス)系アメリカ人の子供と、アジア系アメリカ人の子供に言葉遊びの問題を解かせる実験を行いました。

この実験では、アングロ系アメリカ人の子供たちと、アジア系アメリカ人の子供たちをそれぞれ3つのグループに分けました。
3つのグループ
- 自分で問題を選択するグループ
- 母親に問題を選んでもらうグループ
- 第三者に問題を選んでもらうグループ
その結果
アングロ系アメリカ人の子供は問題を自分で選択したグループが
- 正解数がもっとも多く
- 問題に取り組む時間(モチベーション)も長い
という結果でした!
しかし、アングロ系アメリカ人の子供は母親や第三者に問題を指示された途端に成績も取組時間も大きく低下してしまったのです。

それに対してアジア系アメリカ人の子供は
「母親が問題を選択したグループ」が成績と取り組み時間(モチベーション)がトップという結果、文化によって選択に期待すること、モチベーションの差がみられたのです。

日本人の中でも占のように「第三者に選択や意思決定のアドバイスを受ける」ことを望み、人生のアドバイスを受けることでモチベーションが上がる人もいれば
逆に全く望まない人もいるのはこのためかもしれません。
さらに、このような結果は子供に限った話では無いようです。
選択の自由度を調整する多国籍企業
アイエンガー教授が全世界93ケ国に支社を持つシティーコープという多国籍企業の社員を調査した結果では。
アメリカ系職員は職場の自由度が高いと感じている人ほど
- 意欲
- 満足度
- 実績
のスコアが高い傾向が見られました。

逆に仕事が上司によって決められていると感じる人ほどこの3つのスコアは低い傾向にあったそうです。
そしてアジア系の職員は日常業務が上司によって決められている意識が強い人ほど3つのスコアが高い傾向があったそうです。

今では多くの多国籍企業において、支社が置かれている国の文化や、職員の人種構成割合に応じ、業務の自由度を調整する事で生産性に大きな差が出る事が分かっています。
「選択とは何か」という考えに文化的違いがあるだけでなく、求める選択の自由度やモチベーションの現れ方に違いがあることが分かっています。
遺伝子と選択の差
個人の意思や選択に関わる面白い行動実験があるのでご紹介します。
この実験では被験者に「嘘のルール」を教えてから作業を行ってもらいます。
被験者は実験に参加していることは認識していますが、ルールに嘘があることは知らされていません。
しかし、作業の途中で「教えられたルールは嘘なんじゃないか?」と皆んなが気づき始めます。

その時に次の2つの行動が観測されます。
2つのパターン
- 実験なんだしこのまま言われた通りにしよう(集団主義的思考)
- 教えられたのとは違う自分のルールでやろう(個人主義的思考)
それぞれのグループの遺伝子を調べていくと「カテコール-o-メチルトランスフェラーゼ」というドーパミン分解酵素の活性に違いが見られるのです。
この分解酵素の活性が高い人は意思決定が「楽しい」と感じにくくなるそうです。

この2つのグループの割合を調べると
ヨーロッパでは60%ほどの人が自分で意思決定する事を楽しいと感じる遺伝形質である一方、東アジアでは30%ほどになります。
さらに日本人の場合は、わずか27%だそうです。
日本人は個人主義的な人物も目立ってきていますが、遺伝傾向上は集団主義傾向が強いのかもしれません。
まとめ
自分の事を個人主義だと思っていた人も
- 自分で毎日服を選ぶより決められた制服があった方が助かる
- 自由研究のように全てを自分で決めなくてはならない課題に強い苦手意識を持つ
- ある程度の年齢で結婚して子供を持つ従来の様式から外れたく無い
このように感じている方は集団主義傾向もあるのかもしれません。
会社の部下や学校教育において、自主性を尊重する選択を与えるのか、ある程度指示を出して選択を狭めて導くか、対象によって効果が変わるかも知れないのは興味深い事実です。
現代の日本は個人主義と集団主義が入り混じり、個人主義的に生きることが良いと感じながらも、なかなかそうしきれず不安やストレスを感じる人も多いのかもしれません。
良い選択は個人の文化背景によっても変わってくるという事を覚えておいた方が良さそうです。
これからも、与えられた指示の中で自己決定感を高める方法など、選択について記事を書いていきます!