前回の記事では「思考と感情」にとらわれてしまっている状態「フュージョン」の説明。
それに伴う様々な問題についてご紹介しました。
普段なら適切に判断できる事でも、感情にとらわれてしまった状態では制御するのは至難(しなん)の技です。
そこで今回は自分の感情と距離を置き、客観視できるようにするテクニック「脱フージョン」をご紹介します。
とても簡単に取り組めるテクニックばかりですので参考にしていただければ幸いです。
目次
脱フュージョン
脱フュージョンのテクニックをご紹介する前にフュージョンの状態をおさらいしましょう。
フュージョンの状態
- 頭の中で思考が「私は失敗する」と語りかけ、その思考を鵜呑み(うのみ)にし、無気力な状態に陥いる。
- 嫌いな人の姿を思い浮かべて、イライラし鼓動が早くなって拳を強く握る。
- 嫌な体験を思い出して冷や汗が出てくる。
- 大きなプレゼンの前に「きっと失敗する」「上手くいくはずが無い」などの思考に囚われる
上で挙げた例のようにフュージョンの状態では私達は次のように反応してしまうことが多いです。
フュージョンの反応
- イメージを真剣に捉えすぎる
- 全ての注意を向けてしまう
- 今現実に起きているかのように反応してしまう
そんな時、ついネガティブな感情は考えないようにしたり、目を向けないようにしてしまいがちです。
しかし感情は押さえ込んだり、否定したり、目を逸らすとさらに大きくなる事が実証されています。
ですので、脱フュージョンでは「思考」を「心の中のイメージや肉体的な感覚」と混同せず、ただの頭の中で作り出された物語、頭の中の言葉として認識します。
脱フュージョンすることで以下のことを目指します。
脱フュージョンの目標
- 「思想」は単なる心の中の物語でしか無いこと=思考に囚われない
- こうした物語や想像が私たちを傷つけることはないと自覚すること=思考と距離を取る
- それらの物語や想像が実際助けになる時だけ注意を向けること=思考を少し離れて見つめる
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テクニック1:〇〇という考えを持っていると言い直す
最初のテクニックは「〇〇と言う考えを持っていると言い直す」です。
このテクニックは3つのステップに分かれています。
心の底から思考が作った物語を信じ込みましょう。
嫌な感情や、時には怒り、自分自身への罵倒などの思考に埋没し、10秒間は100%信じてください。
ステップ2はあなたのネガティブな自己評価を「私は〇〇だ」という形に言い換え、もう一度繰り返します。
ただし次は「私は○○という考えを持っている」と言い直してみましょう。
例
「自分はダメな人間だ」→「私は自分がダメな人間だという考えを持っている」
「これはきっと失敗する」→「私は失敗するだろうという考えを持っている」
「あの過去はすごく辛かった」→「私はあの過去は凄く辛かったという考えを持っている」
この時点で少し客観視できる感覚があるといい感じですが、辛さに変化がなくても構いません。
フュージョンしている状態から「私は○○という考えを持っている事に気づいてる」という言い直しで思考を客観視しやすくし、認識を変えるテクニックです。
思考から一歩下がり、思考を握り締めていたものを、軽く持つイメージで行ってください。
例
「私は自分がダメな人間だという考えを持っている」→「私は自分がダメな人間だという考えを持っていることに気づいている」
「私は失敗するだろうと言う考えを持っている」→「私は失敗するだろうという考えを持っていることに気づいている」
「私はあの過去は凄く辛かったという考えを持っている→「私はあの過去は凄く辛かったという考えを持っていることに気づいている」
この「言い直す」というテクニックは「リフレーミング」と呼ばれ、昔から認知療法の中心的で重要なテクニックとされてきました。
リフレーミングを初めて定義したウォツラウィックの研究チームによると
リフレーミンング=「問題やその解決法、自分のリソース(資源、利益を作る源)に関する認識を変える事」
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テクニック2:エクスプレッシブライティング
脱フュージョン二つ目のテクニックはエクスプレッシブライティング=「思ったことや感情を紙に書き出す」です。
これは感情を客観視しやすくし、脱フュージョンを促すと共に強力なストレス対策になることでも知られるテクニックです。
エクスプレッシブライティングは既に様々な研究が行われその効果が実証されています。
- 人に相談したり愚痴を聞いてもらうよりストレスの減少が大きい
- 脳のワーキングメモリ(短期記憶などの認知機能)が向上する
- メンタルのコントロール能力が向上する
- 嫌な人や出来事をスルーする能力が高まる
- 面接の合格率が2倍になる
やり方は、紙とペンを用意して、今感じていることを書きます。
どんな醜いことでも、法に触れるような事でも、ひどい感情でも構わないので心に浮かんだ事を全て書き出してください。
もし何も思い浮かばない時は「何も思い浮かばない、まだ何も思い浮かばない」と書き続けてください。
字は綺麗でなくても構いません、ブワーと書きましょう。
実験などで一番効果があるとされるのは一日20分です。
20分は長いと思われる方は、8分でも効果は認められています。
初めは5分や3分でもいいのでチャレンジしてみましょう、意外とできると思います。
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エクスプレッシブライティングのポイント
エクスプレッシブライティングの効果を高めるポイントをアメリカのジョージメイソン大学が研究しています。
その報告によると、感情をなるべく詳細に物語風に書いた方が良いと言う事です。
「最高」「最悪」「マジやばい」などではなく「心が高鳴って暖かくなるように嬉しい」とか
「プライドを傷つけられ、人格を否定されたように感じた」とか「怒りがじわじわ湧き上がってくるようだ」など感情を詳細に表現した方が良いです。
さらにそれを物語風に書く事で自分の感情を分析したり客観視できるようになります。
感情をこなかく表現するのが苦手な方は純文学を読んでみたり、感情辞書などを活用してみてください。
嫌なことが起きたらすぐにスマホなどに打ち込む事でも効果があるそうです。
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脱フュージョンの治療現場も「書き出し」を導入
ストレスマネジメントの権威でACTトレーナーのラス・ハリスさんは、実際の治療現場でカードに患者が苛まれ(さいなまれ)ている思考が作り出す言葉を書き出しています。
カードに「無能だ」「役立たず」「怠けている」などフュージョンしてしまっている言葉を書き出します。
それを患者の目の前に持って行き「私の顔が見えますか?」「部屋の様子がわかりますか?」と質問をすることで思考に囚われて周りが見えなくなる事を実体験させたり
手に持っていたカードを膝に並べて「この方が日常生活で手が使えて楽ですね」と言葉をかけたりしています。
フュージョンしていた思考を外に出し「モノ(entity)」として扱い、客観性も高めています。
詳しい実践方法はこの本↓
このような外在化(がいざいかexternalization)は自分の問題行動を外側からみられるようにすることによって新たな方向づけ(リオリエンテーションReorientation)をするテクニックとして心理療法でも行われています。
テクニック3:カタストロフスケールで数値化する
このテクニックは感情の数値がをメーターのように想像するテクニックで感情や欲望の客観視にとても優れています。
例えば、今すぐに買いたいものがあったとします、いつもなら感情に任せて買ってしまうところを「カタフトロスケール」を使ってみましょう。
自分の目の前に1〜100のメモリのついたメーターがあるところを想像してください。
そのメーターが
1(今すぐに必ず買わなくてはいけない)
100(買わなくてもいい)
だとしたらなん点くらいなのか考えてみましょう。
その数値化の際に客観視が行われています。
「正」という漢字は「一つ止まる」と書くように、フュージョンを脱するには、一度止まって考えることが大切です。
感情的になっている時も「カタフトロスケール」で数値化して見る癖をつけてみましょう
カタフトロスケールお勧めの実践例
カタフトロスケールを実践するにあたってお勧めなのは「行動を起こす前の数値」と合わせて「実際の行動の満足度」も数値化して記録することです。
例えばジムに行きたくなかったとします「面倒臭い」「行っても無駄だ」と言う思考とフュージョンしてしまいました。
すかさずカタフトロスケールを発動します。
1(絶対に行きたくない)
100(今すぐに行きたい)
結果38だったとします。行きたくないよりですが、とりあえず行くには行って軽いトレーニングはできそうな数値です。
そしてジムに行ってその後の実際の満足度、ジムに行って良かったのかを数値化してみましょう。
これを繰り返して、ジムの前は行きたくない気持ちが強いが、行くと大抵気分は良くなり満足度が高いと把握できればジムを習慣化しやすくなります。
逆に、買い物や、ギャンブル、飲み会など
始める前の期待は高いのに、後になってから後悔が大きい物もカタフトロスケールを使って把握できれば行動する前の大きな判断材料となるでしょう。
テクニック4:思考を表現を変えて表現する
心に浮かんでくる言葉を様々なやり方で表現してみましょう。
フュージョンしている時に浮かんでくる言葉を変んな声や特徴的な声に変換して再生してみましょう。
脱フュージョンの技法は、思考は音声的であるという特徴を利用しているものが多いです。
変な声で再生する
フュージョンしている時に浮かんでくる言葉を変んな声や特徴的な声に変換して再生してみましょう。
まず10秒間浮かんでくる思考に100パーセントフュージョンしてください。
その次にフュージョンしてしまっている思考や物語をアニメのキャラクターや芸人さんで再生してみましょう。
思考を自分で変換する、モノのように扱える感覚も感じられるはずです。
言い方を変える
心の思考の言い方を大きく変えてみましょう。
まず10秒間フュージョンして
「いーーらーいーーーら〜ースルーーー」
「すっっっっっっごく悲しぃ〜ーーー」
「今すぐかーーーいーーーたーーーいーー」
など言い方を変えてみましょう。
10秒間フュージョンしていた時と、言い方を変えた時での受け取り方の違いを感じてみましょう。
歌にする
こちらも10秒間のフュージョンの後に「ハッピーバースデー」や「ジングルベル」などの曲に乗せて思考を歌ってみましょう。
脱フュージョンの目的である思考は単なる言葉の羅列であるこに気づき、思考と格闘する事をやめるを実感できるはずです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回紹介したテクニック意外にも、イメージに字幕をつける、イメージを映像化して早送りや逆再生する、瞑想と組み合わせるなど
ACTの教科書や論文等に書かれているものを合わせると脱フュージョンのテクニックは100以上存在しています。
自分にあったテクニック、上手く実践できる物を探して実践してみましょう。
テクニックと実践例を詳しく知りたい方はこちらの本がお勧め↓
そして100以上のテクニックは全て「脱フュージョン」という目標のためのプロセスです。
テクニックだけではなく「脱フュージョン」自体正しく理解することが効果的と言えるようです。
↓脱フュージョンが上手くいかない時の注意点。