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自尊心の歴史!1950年代〜ロイ・バウマイスターの自尊心神話に対する反論まで
自尊心(self-esteem=セルフエスティーム)は簡単に言うと
ありのままの自分を受け入れ尊重する気持ちのこと、もともとは心理学用語です。
心理学では、鬱や虐待などによって自尊心が著しく低下してしまっている状態は
大きな問題と考えられ、健全な自尊心を持っているべきだと考えられています。
それがいつからか

という考えが広まってきました。

そして近年、自尊心を高めることだけを目的とした教育や社会の考えに
反対する研究者も現れています。
今回は自己尊重の考えが広まった流れとそれに反対する研究者について
組織心理学者ターシャユーリックの解説を基にご紹介していこうと。
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努力の時代から尊重の時代へ1950〜1960年
心理学には分野別に大きな流れがあります。
- 心理学の基礎でフロイトが発展させた、人の心や精神を追求する=精神分析
- 心理学の第2世代として登場し、刺激や反応、学習など観察できるものにより着目した=行動主義
- 第3世代として主体性・創造性・自己実現といった人間の肯定的側面を強調した=人間性心理
- 人間性心理を土台に個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する=ポジティブ心理学
1950〜1960年代、精神病の人や症状を改善する流れから
健康な人でも使える「人間性」についての研究が盛んになり
人間性心理学運動が活発になってきました。

その初期に注目されたのが「自尊心」でした。
=「人は最高になる必要はなく、本当に必要なのは自分が最高だと感じること」
という自己尊重の考えが発信されるようになり、それが徐々に広がり始めたようです。
自尊心は様々な問題を解決すると考えられた時代1969年〜
1969年に臨床心理学者のナサニエル・ブランデンの
「自尊心の心理学(The Psychology of Self-Esteem)」(日本語未訳)
が世界的なベストセラーになります。

ブランデンは著書の中で「自尊心の強い影響力」を説き
- 不安や鬱
- 愛や成功に対する恐怖
- 配偶者への暴力
- 児童への性的虐待
など、あらゆる心理的問題のなかで
自尊心の低下が要因でないものは思いつかないと指摘しました。
持論に対する影響力により
ナサニエル・ブランデンは後に「自尊心の父」と呼ばれる存在になったそうです。
自尊心を高める活動を教育に持ち込んだ男
ブランデンとほぼ同時期の1966年に
ジョン・ヴァスコンセロスという男性がカリフォルニアの州議員に就任します。

彼は政治家になるとすぐに大金を投入し
「自尊心と個人および社会責任を推進するカリフォルニア特別委員会」
の設置に向けた法整備を初めます。
この特別委員会の目的は
- 犯罪
- アルコールやドラッグの乱用
- 10代での妊娠
- 子供や配偶者の虐待
- 福祉への過度な依存
などの問題を「高い自尊心」が減らすと実証することだったようです。
自尊心特別委員化の活動報告
しかし、ヴァスコンセロスが作った特別委員会は困った状況に陥りました。
どんなに頑張っても「高い自尊心」と「様々な問題との関連」を実証できなかったです。
結果、特別委員会は
「自尊心と、それを持つことで期待される効果の関連性は、まちまちか、とるに足らないか、まったくないと言える」
という報告書を作成さざるおえない状況になりました。

高い自尊心と様々な問題とは関連が極めて低く
高い自尊心が人生の成功材料になるという考えはほとんど見当違いだったのです。
アメリカの自尊心を砕いた男=ロイ・バウマイスター登場!
心理学者のロイ・バウマイスターはキャリアの初期から
自尊心についての研究をスタートしました。
バウマイスター自身がとても熱心に自尊心の力を信じていたようです。
しかし、キャリアが進むにつれバウマイスターの中に疑問が生まれ始めます。

ヴァスコンセロス達が主張する
「自尊心の低い人間が暴力的で攻撃的になる」という理由が理解できなかったのです。
そこからバウマイスターと研究チームは
30年にわたり15,000人以上の調査を含めた自尊心に対する研究を行います。
そしてついに
2003年「自尊心神話に対する明確な反論」を発表したのです。

その反論の中で、数々の実験や科学的証拠を基に指摘されていたのは
- 大学生に自尊心があっても社交が周囲よりうまくなるわけではない
- 職場では自尊心が高くても同僚との関係が向上するわけではない
- 軍士官候補生の自尊心は、客観的なリーダーシップのパフォーマンス評価と何の関係もない
と、自尊心が大きな判断材料でもなければ、ほとんど何の問題の要因でもなく
成功や個人的な充足とは関連性がないものだと明確に否定したのです。
さらにバウマイスターは
- 成功していない人が自尊心を高めると、パフォーマンスはむしろ低下する
- 自尊心が高い人ほど暴力的で攻撃的である
- 恋愛で問題が生じたら・別れる・浮気をする・破滅的に振る舞う可能性が高い
- 自尊心が高い人ほど・騙す・酒に走る・ドラッグを使用する可能性も高い
など、これまで特別委員会が主張してきた内容と正反対の
自尊心のデメリットについても指摘しました。
現代において本当の社会の病は
「多くの人が、自分を高く見積もりすぎていることだ」と主張する研究者もいます。
現代も続く自尊心神話と教育
ロイ・バウマイスターが自尊心神話に対する反論を提示した後も
「自尊心を高めなければならない」という教育や考えが広がりを見せているようです。
インサイトと著者で組織心理学者のターシャユーリックはその原因を
「要するに、最高で特別な存在になるよりも、最高で特別だと思い込む方が遥かに簡単だからだ」
と指摘しています。
さらにセルフコンパッションのクリスティー・ネフも
自尊心が高い人の方が他者と自分を比較して考えやすいことや
高すぎる自尊心が復讐心を生み出す危険視を指摘しています。
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まとめ
今回はアメリカを中心とした自尊心にまつわる歴史の流れ
自尊心神話が広がり、近年それに疑問や反対を主張する人が現れていることを解説しました。
自尊心を活かすために必要な要素がまだ見つかっていないだけの可能性もありますし
これから自尊心の新しい活用法や捉え方が再評価されてくることも大いに考えられます。
自尊心が良いものか、悪いものかに囚われるすぎないようにしようと思います。
ただ「自己愛的な自尊心」さえあれば全てが解決するとまでは言えないようです。
「高い自尊心は多くの問題を解決する、自尊心は高けば高いほど良い」