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どうして矛盾する感情が生まれるのか?「脳のモジュール性」を解説
人は相反する感情を同時に持ったり
相反する態度を同時に示すことがあります。
そのような心理は古くから「アンビバレンス」という用語で解説され
フロイトにより精神分析理論で扱われてきたりもしました。
今回はどうして私たちの心理には矛盾する動きが生まれるのか
について「脳のモジュール性」という考え方をご紹介しようと思います。
今回の内容を動画で解説!
心理学で最も重要な考え
「心理学で最も重要な考え方を理解するためには
心が時に矛盾する複数の部分に分かれていることを理解しなくてはならない」
「私たちは一つの体に一人の人間がいると思い込んでいるが
私達の各自が、話の噛み合わないメンバーがかき集められて作業している委員会のようなものである」
by社会心理学者ジョナサン・ハイト
心理学者ジョナサン・ハイトの言葉に表されるように
古くから心理は複数の異なる動きをするものだとして捉えられてきました。
- プラトンの二頭の馬と御者の例え
- 聖書の頭と心
- フロイトのイド、自我、超自我
脳は「モジュール」という考え方
現代の心理学者は脳を何十万もの異なる部分
=「モジュール」の寄せ集めとして捉えているようです。
「モジュール」はプログラミングなどでも使われる用語で
部品を意味する言葉であり、部品単体でも動作することは可能だが
他の部品と組み合わせ使用できるもの。
つまり「装置・機械・システムを構成する、機能的にまとまった部分」のことです。
人工知能研究者のマーヴィン・ミンスキーは
脳のモジュール性を「心の社会」と表現しています。
つまり
脳の各モジュールは少しずつ異なる情報処理タスクを遂行しているということです。
- レベルの低い作業をするモジュール
- 中程度の作業を処理するモジュール
- レベルの低いモジュールが集合して、高いレベルの作業をするモジュール
一つ一つは他のシステムにつながっているけれども
同時に部分的に隔離もされているという状態にあるという考えです。
モジュールの組み合わせで様々なことが同時に起こる
脳のモジュールを単純化してA〜Gの7種類だと考えてみましょう。
「A/B/C/D/E/F/G」
この7つのモジュールはそれぞれ単体でも動作しますが
お互い連携してシステムのように一つの作業を行う時もあります。
「A-B 」 「D-F-G」 「A-D-F」
このように1つのように感じられる
心理や心の動きも様々な方法で分割できるということです。
そして、それぞれのモジュールは連携できると同時に
部分的に隔離もされているという状態でもあるので
ある事実は一つのシステムで知られているけど
他のシステムには遮断されているという場合もあります。
さらに、先程ご紹介した社会心理学者ジョナサン・ハイトが指摘するように
モジュールの様々に異なる部位はいつも意見が一致しているとは限らないのです。
矛盾する思考が生まれることを理解するメリット
このような「モジュール性」を理解すると
冒頭でご紹介したような相反する感情が同時に芽生えることも理解しやすくなります。
下にいくつか説明例をご紹介します。
「バンジージャンプの安全性をいくら理解していても、飛ぶのは怖い」
=安全性を理解する脳のシステムと、生命的な危険を知らせる原始的なシステムが別だから
「他人に親切にすることが他人の為でありながら、自分の為でもある」
=親切にするときは、相手に得をさせたい欲求と、自分も得をしたい欲求が同時に働いている
「将来の資金を不安に感じながら衝動買いしてしまう」
=未来という抽象的な概念を理解する脳のエリアと、目の前の報酬に反応するエリアが違うから
「失敗したとき、行動を修正したら良いとわかっていながら自己批判の気持ちが湧いてくる」
=行動する合理性を理解しているエリアと、自己批判を起こすエリアが違うから
このような理解ができると
不安が強く行動したいけどできない人や
辞めたいのに辞められない中毒症状の方々に対する理解も深まります。
さらに瞑想やマインドフルネスなど「思考を観察」すること
「脱フュージョン」のように思考と距離を置くこと
その場の感情に捉われず「価値に沿った行動」を目指すACTのような
心理療法を行う際にもとても役に立つ考え方だと思います。
脳と体もモジュール?
今回は「脳のモジュール」が相反する心理を生み出しているという説明をしましたが
最近の研究では、脳と筋肉や脂肪、腸内環境なども結びついているとす指摘が多くなってきました。
- 腸内環境を完全するとメンタルも良くなる
- 緊張するとお腹の調子が悪くなる
- 筋肉や脂肪から脳に信号が送られている
つまり脳や、筋肉、脂肪、腸内環境などはそれぞれが異なるシステムでありながらも
一つ一つは他のシステムにつながっていて
同時に部分的に隔離もされているという状態にあるという考えです。
身体の中で別々の部位だと思われている臓器や器官も
複合的に働いて人間の活動や健康状態などに影響を及ぼしているのかもしれません。
まとめ
近年の科学では
各臓器と身体
個人と集団のように
個々でも機能するものが、全体としても働くことに注目する流れが強くなっています。
個々の役割を理解することから、それぞれの結びつきや、連動して働く機能
=ネットワーク的なアプローチに目が向けられているのです。
ネットワーク・アプローチは
それぞれの要素がいろんなタイミングで互いに活性化する結び目を持った集まりの、さらに大きな集合体として捉える考え方です。
理解はより複雑になるかもしれませんが、とても興味深い考え方だと思いました。
「愛してるけど憎んでもいる」
「理解は出来るけど納得はできない」
「尊敬してるけど軽蔑もしてる」
「怖いから離れたいけど、見てみたい好奇心も湧く」