目次
選択肢が多いことは良いこと?選択肢の数と絞り方
皆さん「選択肢は多ければ多いほど良い!」と思ったことはありませんか。
選択の多さを求めるのは生物の本能であり、アメリカなどの個人主義文化でも、選択肢の多さは人生の「機会=チャンス」の多さだという考えが根強いです。

しかし、本当にそうなのでしょうか?
多すぎる選択肢
- 保険に入ろうと思ったら1000種類以上の選択肢が有る
- マッチングアプリで恋人候補が10人以上いる
- 初めて行ったバーに30種類以上のカクテルがある
- 選挙で政党や候補者が乱立している
多過ぎる選択肢に頭を悩ますこと自体を楽しむ場面もありますが
多すぎる選択肢は私達を、混乱、後悔、悩ませ、判断が適当になったり、場合によっては「選択回避=選択をしない」ことを選ばせてしまいます。
今回は多すぎる選択肢に対する対処法と、選択肢の数に関する心理を解説していこうと思います。
選択肢の数に関する有名な実験=ジャムの実験
選択肢の数に関する、世界で最も有名な実験の1つはコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が行ったジャムの実験です。
ジャムの実験
- 6種類のジャムを並べ、試食した客にクーポン券を配る
- 24種類のジャムを並べ、試食した客にクーポン券を配る
この2つを比べたところ、客の注目を多く浴びたのは24種類のジャムでしたが
実際に購入した客の数は、6種類のジャムの方がなんと6倍も多かったのです。

私達は数の多い選択肢に魅力を感じますが、実際は多すぎると困ってしまうのです。
特に
- 選択肢の見分けがつきにくい時
- 良いものを1つだけ選ぶ時
この2つの条件下では多すぎる選択肢は選ぶのが困難になる事がわかっています。

多すぎる選択肢が、選択回避を生み出してしまう事がわかってから、選択肢の数を減らし、絞り込む事で業績をあげる企業も多く現れました。
選択肢を絞る企業
- P&Gは26種類あった老け防止シャンプーを15種類に絞り売り上げが10%向上
- ゴールデンキャットコーポレーションは猫砂を10種類廃止して売り上げ12%向上
多すぎる選択肢への対処法
私達は自分で選択・決定をしたいという生まれながらの欲求を持っています。
アイエンガー教授は、その欲求を満たしながら多すぎる選択肢に対処する2つの方法を推奨しています。
- 選択肢を多くても9〜5択に絞る
- 専門的になる、もしくは専門家に聞く
この2つです。
多すぎる選択肢への対処法/選択肢を7±2に絞る
プリンストン大学の心理学教授を務めるジョージ・ミラーが人間が処理できる数について詳細な調査を行っています。
- 世界の7不思議
- 七つの海
- 七つの大罪
- 地獄の7層
- 7原色
- 7音音階
- 1週間は7曜
ミラーや多くの研究者は「7」という数字と、人間の処理可能な情報量との関係に注目し様々な研究を行いました。
経験や専門性を発揮できない短時間で様々な比較を行い情報量と処理能力の関わりを調べる実験です。
- 様々な形を見せて小さい順に並べる
- 沢山の点の位置を記憶する
- 線の方向や曲がり方を比較する
- 複数の物体の色や明るさ
- 音の高さや強さ
- 振動の位置と強さ
- 匂いや味の強さ
その結果、ほとんどの人は7(±2)つまり、5〜9までのアイテムしか対処できず
それを超えると、的はずれな答え(知覚の誤り)を出したり、正解率が急落するようになることを明らかにしたのです。

例えば
- 5つの低音を低い順に並べる
- 5つの高音を高い順に並べる
この2つの作業が上手にできる人でも、高音と低音、合わせて10個の音を聞かされると順番に並び替えることは難しかったのです。
つまり音を並び替える能力に問題があるのではなく、並び替える音の数の多さが作業を難しくしたと考えられています。

選択肢も同じで、どれが合理的な選択か、情報を処理して決定する能力があっても
選択肢の数が多くなってしまうと脳の処理能力を超えてしまい、選択が難しくなってしまうのです。
おすすめ!選択肢の数
多くの人は選択肢を9〜5(7±2)まで絞り込む事で情報を処理しやすくなったり選択をしやすくなります。
過去の記事で「文化によって選択に期待する傾向が違う」こと「自己決定の感覚を鍛えよう」などの記事をご紹介しました。
これらの記事を読んでみて
- 自分は選択に対する期待が低い
- 自己決定が苦手そうだ
そう感じる方にお勧めなのは選択肢を3つまで絞ることです。

3つだと比較検討を行いやすく、選択もしやすいため合理的な判断と一緒に、幸福度と関連が深い自己決定感も得られます。
絞った選択肢を合理的に決定したいときは「デバイアス」でご紹介した方法を使って選択の客観性を高めることをお勧めします。
多すぎる選択肢への対処法/専門的になる、専門家に聞く
選択肢を絞れと言われても、何を基準にして絞り込めば良いか分からないと思います。
そんな悩みと、多すぎる選択肢への対処、両方で役に立つのは
「専門的になるor専門家に聞く」です。

選択したい分野の専門的知識や経験を増やせば、その分野において7±2以上のアイテムを処理する能力が養われます。
また、選択候補に初めから入ってこない「論外」の判断が的確になったり、多過ぎる選択肢を有る程度のグループとして、まとめて考える=チャンク化の能力が養われ選択の助けになります。
記事を取得できませんでした。記事IDをご確認ください。
⬇特におすすめ!2020年10月に出た最新のクリティカルシンキング=合理的思考の本です
問題を解いて行くことで
知らない内に陥っている思い込み、判断の歪みを直し、科学的思考を学ぶことができます!
思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ
専門家に聞いた方がいい事
全く初めての分野で多すぎる選択肢に出会ったときは「その分野の専門家」の助言を借りて選択肢を絞ってもらう事がお勧めです。
この方法は専門家があなたの利益を最優先してくれるという信頼がある事が大前提となります。

その専門家に自分が望む「選択肢の希望」を伝えて候補を絞ってもらいます。
- カクテルが沢山あるお店で「飲みやすくフルーツを使ったものでおすすめはどれですか?」
- 車の中古車展示場で「燃費がよくて、走行距離の比較的短いものはどれですか?」
- 何百種類もの香水が有る店で「ビジネスシーンでも使えるナチュラルな香りを探しています」
- 服屋さんで「私は何色が似合うと思いますか」
専門家に選択を決定してもらうと、自己決定感や人生のコントロール感が低下し幸福度が向上しない事が考えられます。
これらの問いかけや、専門家の推奨を踏まえて選択肢を絞り、その中から自己決定を行う事で後悔の少ない、満足度の高い選択を行う事ができます。

またNetflixやAmazonなどは何万もの動画や、商品を扱っていますが「あなたへのお勧め」など「推奨(すいしょう)」の機能を強化する事で売り上げを向上させています。
YouTubeもほとんどの動画は検索ではなく、トップページ(推奨)や関連動画からの再生だそうです。
これらも多すぎる選択肢から専門家による推奨や絞りこみが行われ、満足度の高い選択の助けになっている例です。
他人に選択を任せた方が良い場合
これは例外的なパターンですが、自分で決めずに、人に決めてもらった方が良い結果を生む場合があることが分かっています。
それは「どちらに転んでもよくない結果になる選択」です。
複数の不味いヨーグルトを食べさせられる実験などを通して、どの選択肢も良くない時は、自分で選択せず、他者に決められた方が結果に対してポジティブな反応がある事が分かっています。

どちらに転んでも良くない選択を自ら決定した時「自分が選んだ事だからこうなった」
という自己決定の認識が後悔を強める事が分かっています。

例えば
3つの罰ゲームから1つを選ばなくてはならない、でも「どれも同じくらいやりたくない」
なんて状況になったら、他人に選んでもらったほうが結果に対してマシな反応になる可能性が高いのです。
あまりに大きな、どちらに転んでも良くない選択
小さな後悔は選択の能力を磨く肥し(こやし)になります。

しかし、人生においてあまりに大きな「どちらに転んでもよくない結果」が待っている選択肢がある場合。
選びたい選択肢があれば自己決定するべきですが
どちらも選べないような状況の場合は無理に自己決定しようとせず、他人特に専門家に決定してもらった方が後悔やメンタルの悪化が少なくなる事が示唆されています。
- 要介護の親を自宅で介護するか、見捨てるような気持ちになるが施設に預けるか
- 脳死状態の子供を延命するか、生命維持装置を外すか
- 難病で苦しんでいるペットを安楽死させる選択をするか
これはアメリカとフランスの親を対象に行った調査の結果で、ほとんどの親は
「大き過ぎる、どちらに転んでも良くない結果の選択」に対して
- 選択を自分で行いたかった
- 自分で選択してよかった
と回答する一方
長期的な後悔やメンタルの悪化は自分で選択したグループの方が強く、非選択の親の方が結果を前向きに捉える傾向が観測されたのです。

これらは「選択は全て自分で行ったほうが良い」とする個人主義的な考えとは異なります。
コロンビア大学のアイエンガー教授はこれらの研究結果から次のようなアドバイスをしています。
選択に対する心構え
- 「選択が無条件の善である」考えを改める事
- 複雑な選択を十分に検討できないことをわきまえ、常に最良の選択肢を探し当てられないからといって自分を責めない事
この事を人生の大きな選択でも、小さな選択でも意識しながら、選択する能力を鍛えて行く事が大切なようです。
自分を責めない=自己批判対策には過去にご紹介したセルフコンパッションや反芻思考対策などを参考にしてみてください!
まとめ
多すぎる選択肢は
「分からないからこれでいっか」
「多すぎて選べないから選択しないでおこう」
などの心理を生みマイナスに働く場面があるようです。
この事実は個人主義特有の「選択の多さ=機会(チャンス)」と捉える傾向が強いアメリカでは大きな議論を呼び、痛烈に批判する著名人もいたそうです。
ですが実際に考えてみると選択肢の多さが、選択を妨げている心当たりはかなりあるように感じます。
この先、後悔の少ない選択を行うには、選択肢の数にも着目してみまてはいかがでしょうか?
まとめ
- 選択肢が多いと選択を回避しようとする心理が生まれる
- 選択肢が多すぎる時は7±2に絞る
- 専門的になったり専門家の意見を活用する
- どれも良くない結果の選択は自分でしない事がお勧め
- 選択をすることは全て善という認識を改めよう
- 選択の限界、不完全さを知り自分を責めないようにしよう