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制限がある方が有利になる?トーマス・シェリング「混合動機ゲーム」の考察!
競争を有利に運ぶためには
そう考えるのが一般的でしょう。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
今回は協力と対立のゲーム理論の研究で知られ
ノーベル賞も受賞した経済学者
トーマス・シェリングが考察した「混合同期ゲーム」から
心理学の話に繋がる流れをご紹介しようと思います。
今回の内容を動画で解説
混合動機ゲーム!チキンゲームで勝つには?
まずシェリングが考察した「混合動機ゲーム」とは
混合動機ゲーム=二人以上の人間がいて、それぞれが求める利益に
重複する部分と対立する部分があるような状況を指します。
混合動機ゲームの例を出しましょう!
2つの会社が価格競争をしている時
- 片方の会社だけ安くすればそちらに客が流れ一人勝ちできる
- 2社とも価格下げればどちらも利益が少なくなる
- 2社が協力し同じ価格を維持すれば利益は安定するが一人勝ちできず、裏をかかれるリスクある
このような「混合動機ゲーム」の状態では
直感に反するような奇妙な行動を引き起こす可能性があることをシェリングは証明しました。
例えば若者二人がチキンゲームを行う場面を想像してみましょう。
二人はお互いの車を向かい合わせて走らせ
先にハンドルを切って避けた方が
チキン=臆病者だというゲームです。
この混合動機ゲームは以下の結末が想定できます。
チキンゲームの結末
- お互いに直進し続け車同士がぶつかる
- どちらかが回避して勝者と敗者が生まれる
- お互いに回避して何も起きない
シェリングはこのチキンゲームの必勝法をアドバイスしています。
それは相手と向かい合って位置につき
エンジンふかしている状態で…
自分の車のハンドルを外して相手に振ることです!
そうすることで相手には
こちらがハンドルを固定し直進するしか選択肢がない
つまり、回避することができず直進しかできないことがわかります。
その結果、死にたいのでない限り
相手は先にハンドルを切らなければならず
ハンドルを外した方が勝者になれるのです。
シェリングが指摘した不合理な戦略的行動
先ほどのチキンゲームでの「ハンドルを外す行動」が直感に反する理由は
=自分の選択肢を制限している点にあります。
私達は知識や情報、選択肢は正確で、多い方が有利だと思っています。
それに対して、シェリングは混合動機ゲームのひねくれた動機づけによって
一見不合理に見えて実は戦略的な行動が様々な場面で引き起こされていると指摘しています。
不合理に見えて戦略的
- 面倒な電話がかかってくると分かっているのでスマホの電源を切っておく
- 政治家が都合の悪い点を指摘されて「記憶にございません」と回答する
- 誘拐された時、解放される可能性を高めるために相手の顔を見ないようにする
- 交渉する際、自分は能力が高いと信じ込めば、自信のある態度に相手が説得される可能性が高まる
このように混合動機ゲームにおいては、あえて
- 意思疎通を弱める
- 情報を制限する
- 不利な条件をのむ
- 戦略的無知
- あえて誤りの情報を信じる
などの
一見不合理な行動が勝利や成功確率を高める状況があるというのがシェリングの指摘です。
自己欺瞞も人間の戦略的な進化!?
心理学では昔から
- 人は自分のことを正確に理解できていない=誤った自己認識
- 自分を大きく見積りすぎている=自己欺瞞
などがある事が指摘されてきました。
そして自己欺瞞が起きる理由は
=「自尊心を守ためだ」と考える流れが強かったようです。
ですが、今回解説した混合動機ゲームにおけるシェリングの考察
=自分自身を制限したり妨害したりすることが「勝利の決め手」
になっているという主張が心理学とも融合していきます。
人間の実社会のように「協力と競争」など駆け引きのある場面での戦略は
- 単純に不確かさを無くして
- 選択肢や正確な知識を増し
- 最善の判断をする
という決定理論だけではないのです。
次回は最近注目度が高まっている自己欺瞞に対する進化心理学的な見方
ロバート・クルツバンやロバート・トリヴァースが提唱する仮説
「人は相手を騙すために、まず自分を騙す」を解説しようと思います。
まとめ
今回ご紹介したゲーム理論は数学や経済学の分野で深く探求されてきた分野のようです。
そんなゲーム理論も進化心理学や社会心理学の中にも取り込まれてさらに拡大しているようです。
心理学のいろんなジャンルを包括できる力や
数学や経済学などから新しい発想を得るレンジの広さにとても面白さを感じます。
かなり久しぶりのブログ更新になりました。
また頑張っていこうと思います。