目次
思考の「放流」=DMN(デフォルトモードネットワーク)のメリットデメリットを解説!
- 昔通っていた小学校の校舎を思い出してくださ
- ボールを蹴った時の足の感覚を思い出してください
- 太陽が照りつけるビーチを思い出してください
人間は家のソファーに座っている時でも
思考は場所や時間から解き放たれて空想の旅に出かけることができます。
そして、思考が空想を始めると
「五感や脳もそれに合わせて反応する」ことが分かっています
- 晴れた空を想像する→瞳孔が縮小
- ボールの感触を想像→脳は実際にボールに触れている時と同じ反応
- 小学校の校舎を想像→脳も本当に校舎をみている時のように反応
こうした「感覚の放流」は自分の意志とは関係なく
ぼーっとしている時や、お風呂に入っている時に起きることもあります。
この「感覚の放流」=頭の中での時間旅行のおかげで沢山のメリットがあります。
- 過去の行動や後悔を考え直す
- 将来のための複雑な計画を立てる
- 計画や行動をシミレーションして修正する
- 失敗を想像して予防策を立てる
- 初めてのシチュエーションを切り抜ける方法を考える
- アイデアが生まれる
これらのことが可能になり、進化の過程で人間に選択的な優位性をもたらしました。
しかし、それには代償もともなっています
- 過去の後悔に繰り返し囚われる
- 未来を心配しすぎる
- 現在への注意が散漫になる
今回は人間の脳が持つ神経回路網(ニューラルネットワーク)の中でも
DMN(デフォルトモードネットワーク)について解説しようと思います。
発見!何もしてない時でも脳は活動している!?
現代では、何もしていない時でも脳は活動しているというのは常識です。
しかし一昔前までは、ただでさえエネルギー消費の大きい脳が
ぼんやりしているだけでエネルギーを消費しているとは考えられていませんでした。
かつての神経科学者は
「脳は起きたことに反応するものだ」と考えていたようです。 つまり
文字を読もうとした時に「見る/読む」などをつかさどる神経が「スイッチオン」になる
しかし、目を閉じて入れると外からの刺激が何もないのでスイッチは入らないという考えです。
ところが21世紀に入る頃
「何もしていない時に脳内で活発になる領域がある」ことが発見されます。
心理学者のマシュー・リーバーマンは著書「21世紀の脳科学」の中で
「人間の脳のデフォルト設定である「休んでいる」状態は、実のところ休んでいる状態などではなく、社会的な神経回路網が永続的に起動している状態である。
と主張しているようです。
このようにDMN(デフォルトモードネットワーク)
=私達が何もしていない時に活動を始める神経回路が注目され始めました。
DMNは内側前頭前野(MPFC)や前部帯状皮質(ACC)
といった広いエリアから構成されます。
さらにDMNが働くことで色々な情報をまとめ新たな発想を産むのに役立ちます。
DMNが活発になるとき
- ボートしている時
- シャワーを浴びている時
- 電車の移動中
などにいいアイデアが浮かびやすいのはこのためです。
このように暇な時、退屈な時でも脳は水面下で活動しており
常に代謝エネルギーの20%を消費していることが分かっています。
DMN(デフォルトモードネットワーク)が不健全に機能するとき
冒頭でも触れましたが
DMNの働きによって私たちは未然に計画を立てたり、改善を行うことができます。
しかしDMNがマイナスに働いてしまう場面も指摘され始め
近年では私たちの苦しみを生む要因になることも分かってきました。
というもの、DMNはとても社会的な思考を強調するネットワークであり
自分に関する情報を処理する回路でもあるからです。
- 統合失調症の場合、体験が現実なのか想像なのか分からなくなる
- PTSDでは意志と無関係に最悪な記憶へと心が引き戻される
- 鬱病で過去の後悔に囚われ繰り返し思考してしまう
- 不安症なら未来に起きる不幸を考えてしまう
実際2020年のメタ分析でも「鬱病患者はDMNの活動が大きい」という結果が出ているようで
DMNが不健全に機能した場合、メンタル悪化の要因になっていると考えられます。
現在にとどまる動物、過去未来に囚われる人間
2006年京都大学の霊長類研究所で飼育されていたチンパンジーのレオは
脊髄の炎症による四肢麻痺になり、ほぼ寝たきりの状態に陥りました。
レオは身体の痛みや空腹の辛さを訴えはするもののそれ以上の苦しみは表さず
首から上は元気なときのレオのまま、笑顔を見せる余裕すらあったそうです。
実際、尿検査でもストレスホルモンは正常値で着実にリハビリを続けたレオは
10ヵ月で腕の力だけで体を起こすことができ
14ヵ月で体を起こして座れるようになり
3年後には歩行機能を取り戻しました。
これがもし人間だったら、リハビリの途中で未来を不安視し心が折れたり
メンタルが沈み込んでいたかもしれません。
ですがチンパンジーを含め殆どの哺乳類には人間のように
意識を「放流」して未来/過去を考える力は備わっていません。
手足を失った動物などは未来に絶望せず今を生きようとします。
常に「今ここ」=現在に生きているのです。
それに対して人間の思考は時間旅行を始め未来に対する不安を作り出します。
内閣府の調査では日本の若年層(10〜30代)の間で
自分の将来に不安を抱くと答える人が78.1%であるという報告があります。
DMNの働きが過剰になり過去の後悔を想起したり将来への不安が増します。
さらに、それらのことを考えている間、現在への注意は散漫になります。
- 幸せな環境なのになぜか幸せを感じない
- 不幸ではないが生きる意味も感じられない
- 未来に明るい展望が抱けず、全てから逃げ出したい
- 他人の何気ない言葉に傷ついてそれが頭から離れない
さらにワイルコーネル医学大学のロバート・L・リーヒらが
不安症に悩む男女を集めて行った調査によると
- 不安症の人が抱いた心配事の85%は実際に起きなかった
- 不安が現実になっても79%は予想より良い結果が出た
- 心配事が予想より悪くなるケースは全体の3%だった
という結果が出ています。
つまり心配事のほとんどは杞憂に近いのです。
現代人は失敗への恐れ、強い完璧主義傾向、他者との比較などから
DMNが過剰にネガティブな方向に働きやすくなっている可能性が高いようです。
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マインドフルネスの登場
DMNや人間の思考が過剰にマイナスな未来を想定してしうまと聞いた時
「じゃ未来について考えなければ良いじゃん!」
「簡単な話!悩むだけ無駄ってことでしょ!?」
と思ってしまいがちです。
ですが人間は思考を時間旅行させるように進化しているので
意志の力だけでDMNの活動を抑え込むことはほとんど不可能と言えます。
そこで現在、注目されている介入方法が「瞑想やマインドフルネス」です。
瞑想やマインドフルネスを通して、DMNの働きを観察したり
今、現在にとどまる意識をトレーニングすることで
不安や鬱傾向にも改善が見られることが分かっています。
説明がわかりやすく、とても使いやすいのでマインドフルネスを始める最初の本におすすめです!
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まとめ
最近では人間が持つ意識の「放流」DMNの働きが
現代のさまざまな要因と重なりメンタル悪化の要因として働いてしまっているという指摘が多いようです。
この問題に対しては運動や瞑想などの改善方法も多く研究され始めているのでこれからも注目していきたいです。