内発的報酬と外発的報酬の違い/アンダーマイニング効果/家を買うのは幸福か?

 

ポジティブ心理学はアメリカで生まれた心理学で、新しい発見が続々生まれている、とても注目の分野です。

 

今まで色々な心理学がありましたが「心の病を治す」という研究が大きな流れでした。

 

しかしポジティブ心理学では「健康な人間の機能」に焦点を当てています。

 

つまり現代に生きる全ての人が利用し役立てることのできる心理学なのです。

そんな研究分野から今回は「内発的報酬」と「外発的報酬」についてまとめてみようと思います。

 

内発的報酬と外発的報酬の違い/アンダーマイニング効果/家を買うのは幸福か?

 

様々な発見があったポジティブ心理学

その歴史の中で、研究者たちが口を揃えて言う事は「幸福そのものは見つけられない」という結論です。

 

どんな多くのお金や、立場、成果や状況も、真の幸福を運んで来ないと言う事が分かり始めました。

 

積み重なるコイン

 

では幸福はどうやって手に入れるのでしょう?

その答えは「私達は自身の活動に真剣に取り組んで、自ら幸福を生み出さなければならない」というものです。

 

私達は自分の中から幸福を作り出すしかなく、外から来る幸福は長続きしないという見解です。

 

 

 


「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室

 

 

内発的報酬と外発的報酬の違い

 

つまり

外発的報酬=お金、物、地位、名誉

 

はもらった瞬間嬉しさや強い満足感がありますが、以下のような特徴も併せ持つことがわかっています。

 

外発的報酬の特徴
  • 嬉しさに慣れてしまって特別じゃなくなる
  • もっと強い刺激や報酬が無いと満足できなくなる
  • 中毒性が強い
  • 孤立を強める
  • 満足度は高まるが幸福度長続きしない

 

 

ポジティブ心理学者の研究や実験により、外発的報酬は長期的な幸福の障害になるということがわかっています。

 

 

それに対して内発的報酬は

 

内発的報酬の特徴
  • 個人的な強み
  • 好奇心の追求
  • 社会的つながり
  • 私達をとりまく世界に強く関与する事で生み出される前向きな気持ち

 

これらを生み出す活動に没頭する行為や、没入感が何よりも喜びに満ち、満足感を得て、有意義さを感じる経験につながる

 

これがポジティブ心理学の初期からある根本的な考えです。

 

 

 

 

幸せになるには

 

外発的報酬

  • 高学歴
  • 容姿端麗
  • お金持ち
  • 結婚

 

 

などの確かな方法があり、より楽で、安全であれば幸せだとする一般的な考えとは大きく矛盾する結果です。

 

 

 

ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ

 

内発的報酬と外発的報酬は脳の動きも違う

 

お金や評価など=外発的報酬がもらえたり、もらえそうになった時、反応するのは報酬系と呼ばれる脳内ネットワークです。

 

報酬系ネットワークは主に側坐核(そくざかく)、扁桃体(へんとうたい)、その近くにある線条体(せんじょうたい)などが活発になります。

 

これらの脳は大昔からある原始的な領域です。

 

脳の断面図

 

 

中でも線条体の大きさと機能は、爬虫類や鳥類、哺乳類に至るまで動物界全体でほとんんど変わらないため、より動物的と言えそうです。

 

線条体には色々な機能がありますが、一番大事な役割は「経験に伴う報酬について判断を下す事です。

 

芸をした犬にすぐ餌をやると「芸をする=いい経験」と線状体が判断を下すようになります。

とても分かりやすい回路です。

 

線条体の仕組み

 

 

それに対して内発的報酬は脳内の複雑なネットワークが関与している事がわかってきました。

 

行動が外発的報酬によるものでなく「好奇心達成感」などの内発的動機に裏打ちされている時。

 

新しい事を考えたり閃いたりする、創造性が高い時に活動する脳の神経ネットワーク=デフォルトモードネットワークが活性化。

 

 

脳の血管

 

 

 

さらに物事をまとめたり理性的なコントロールを行う=エグゼクティブネットワーク

この二つを橋渡しする=サライアンスネットワークが脳内で有意に活性化します。

 

 

これら脳のネットワーク領域には、前頭前皮質など、他の動物に比べ、人間の脳で特に大きく発達した領域が含まれています。

 

なので、内発的報酬には外発的報酬と違う複雑さ、奥深さ、人間らしさ、大きなモチベーションがあると示唆されています。

 

 

 

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

 

内発的動機を外発的同期に変えてしまうアンダーマイニング効果

 

アンダーマイニング効果は、内発的動機(=自分の好奇心など内面から湧き出た動機)にお金称賛、名誉などの外部報酬を与えると。

 

内発的動機報酬のために頑張る外発的動機に変わってしまうという心理動作です。

 

ただ変わってしまうだけなら問題ないように見えますが

外発的動機変更後はモチベーションが著しく下がってしまいます

 

 

アンダーマイニングでやる気が下がる

 

 

先ほども説明しましたが

 

  • 外発的動機=短期的で単純
  • 内発的動機=複雑で長期的

 

だからです。

 

 

内発的報酬だけで脳が興奮しモチベーションが湧く

 

2015年にデニング大学がMRIを使って脳を調べた研究で

好奇心探究心などの内発的報酬動機は、報酬なしで脳が興奮し、線条体も反応する事がわかっています。

 

興味好奇心を持っている作業を目の前にするだけで、やる気を感じ集中力をコントロールする 前頭前野外側部が活性化するのです。

 

 

クリアな脳

 

 

人間は、お金などの外発的報酬がなくても興味探究心などの内発的動機に伴う行動で満足や、興奮できるという事が科学的に分かりました。

 

 

ですがそのような作業にお金名声を与えると外発的報酬、動機に置き換わってしまいます。

 

 

この内発的報酬外発的報酬に移り変わってしまう現象がアンダーマイニング効果です。

 

アンダーマイニング効果の例

 

アンダーマイニング効果が実際どんなところで起きているのか考えられる例を上げてみましょう。

 

Aさん釣り大好きで、最近は大物を釣り上げ、その写真を皆に見せて「釣り名人」と賞賛され、部下からは釣りの師匠と呼ばれるようになりました。

 

 

緊張で眠れず

 

 

それからAさんは釣りに行く度に、また皆んなが驚くような大物を釣らなくちゃ、賞賛を受けなくてわいけない気持ちが強くなりました。

 

魚が釣れたときは喜びより、名誉が保たれる事に安堵を感じるようになり、獲物を逃した時は道具に当たったり、イライラを強く感じ始めました。

 

 

アンダーマイニングでイライラ

 

釣りにおけるアンダーマイニング効果の例です。

 

そもそも、釣り人はなんでスーパーに行けば売っている魚を、手間をかけて釣り上げようとするのでしょう?

 

それは「魚という報酬を手に入れる」という外発的報酬だけでなく。

 

仕掛けや餌を工夫する、釣れるポイントを探す、潮の満ち引きを調べる、などの興味探究心内発的動機が関与して、複雑な幸福感を得ているからです

 

釣りの幸福

 

 

それが周りからの賞賛によって「大物を釣って賞賛を得る」という外発的報酬に釣りの動機が移行してしまい、釣りを探究して楽しむ興味好奇心が低下してしまいました。

 

 

皆さんの周りにも「趣味は仕事にしない方がいい

と言っている人や、儲からないのに楽しそうに、粘り強く継続して何かに取り組んでいる人、あえて手間がかかる事を趣味にしている人がいませんか?

 

 

彼らの動機報酬内発的外発的か考えてみましょう。

 

 

「好き」を「お金」に変える心理学

 

 

 

外発的報酬に順応してしまうことを表現したイギリスのことわざ

 

最後に、外発的報酬からもたらされる短期的な幸福を上手く説明しているイギリスことわざを紹介します。

 

 

イギリスのことわざ
1日幸せでいたいなら、床屋に行け。

1週間だけ幸せでいたいなら、車を買え。

1ヶ月だけ幸せでいたいなら、結婚しろ。

1年だけ幸せでいたいなら、家を買え。

1生幸せでいたいなら、正直でいることだ。

 

 

これはポジティブ心理学で「快楽の順応」と呼ばれる心理動作を分かりやすく伝えることわざだと思います。

 

 

イギリスの研究

 

 

このブログで過去に紹介したように「結婚は」ゴールであって「人を愛し人生をサポートすること」は人生の価値になります。

 

ゴールだけを追い求めることと、外発的報酬を求めることは似ているように思います。

 

 

価値と目標の違いアイキャッチ

 

 

誰も知らない世界のことわざ

 

家を買うのは幸福か?科学実験

 

関西学院大学の中里直樹らの研究グループは、ドイツで1991年から2007年にかけて、住んでいる家に不満があり、新しい家に引っ越した数千人の人々を追跡調査しました。

 

その結果、新しい家に対する満足度はかなり上がりますが、生活に対する満足感、つまり全体的な幸福感はまったく向上しませんでした。

 

 

昼寝で認知症リスク低下

 

 

さらにブリティシュコロンビア大学のエリザベス・ダンのがハーバードの学生を調査しています。

 

ハーバード大学では大学年生を12の寮に振り分け、大学生活の3年間の多くをそこで過ごさせます。

 

 

幾つかの寮は広く美しいですが、建築業会のどん底時代に建てられ、大学から遠く離れた不憫な寮もあります。

 

希望の寮に入れた学生は、寮に対しての満足度は高かったですが、生活全体の幸福度は不憫な寮の学生と差がありませんでした。

 

 

ど田舎の寮

 

さらにペンシルベニア大学のブッチアネーリ教授がオハイオ州の600人以上の女性を対象にした研究では

 

マイホーム所有者は賃貸住宅に住む人よりも幸福だということはないが、体重は6kgほど重いことがわかりました。

 

誰しも狭くて汚い家と、広くて綺麗な家なら、もちろん後者に住みたいです。

 

家を買うと「家に対する満足度」は上がりますし、マイホームを買うことがよくないと言っているわけではありません。

 

念願のマイホーム

 

ですが、実験結果を見る限り、家を買っても人生が薔薇色になって、毎日がハッピーに生まれ変わるとまでは言えないようです。

 

同じような研究結果は車や高級品、社会的ステータスに関わる物を購入した時によくみられるようです。

 

 

 

「幸せをお金で買う」5つの授業 (中経出版)

 

まとめ

 

今回は内発的動機と外発的動機の違い、心理学の幸福についての見解、脳の反応、アンダーマイニング効果などをご紹介してきました。

 

外発的動機は直感的で分かりやすく、動物的で瞬間的な興奮と隣り合わせているため、幸福と直結しているように感じます。

 

より人間的で、長期的で、深みのある幸福を作り出す作業には、内発的な報酬や動機の理解が必要です。

 

外発的報酬と内発的報酬、どちらが大切かと極端になる必要もありませんが、誰しも外発的報酬だけに偏ってしまうことが多いので、その時は気をつけましょう。

 

まとめ

  • 長期的な幸福は自分で作り出すしかない
  • 報酬によって脳が反応する領域も違う
  • 報酬や動機は環境によって入れ替わってしまうこともある
  • お金で買えないものもありそう

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です