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人はなんで笑うの?〜これまであった3つの仮説と今注目の説を紹介〜笑いの心理学
そんなことを考えたことはありませんか?
真っ先に思い浮かぶのは「面白いことがあったら笑う」という答えです。
しかし、笑いには「苦笑い、愛想笑い」など様々な種類があります
さらに笑いは社会的な目的で活用されているとする考えも強まってきているのです!
今回は笑いについての考察や議論、今注目されている説などをご紹介します!
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笑いは万国共通!さらに人間だけの物ではない!
人は話たり、歌ったりする何ヶ月も前から笑い始めます。
視覚と聴覚に障害があり、両親や兄弟の行動を真似できない赤ちゃんでも
本能的に笑い方を知っています。
さらに、文化によって異なる発展をしている「歌や言語」などと違い
笑いは地球上のほとんどの場所でほぼ同じ音を発することがわかっているようです。
さらに笑いはヒト以外の4種の「大型類人猿」でも観察されています。
- オランウータン
- ゴリラ
- ボノボ
- チンパンジー
人を含めたこの5種に笑いが見られるのに対して
それ以外の霊長類には見られないことから
笑いの起源は1200万年〜1800万年前の共通の祖先にあることが示唆されています。
そんな笑いですが、長い年月をかけて様々な考察が行われてきました。
笑いについての考察の歴史〜主要な3つの考え〜
今回は様々ある笑いについての考えの中でも
哲学者のジョン・モリオールが指摘した1930年台までにあった
主要な3つの説をご紹介します。
優越説
この説は主に以下の人物によって考察されました。
- プラトン
- アリストテレス
- トマス・ホッブズ
- ルネ・デカルト
優越説では、笑いとは
自分が他者より優位だと感じている時に生じるものであるという考えが基盤です。
優越説については以前別の記事でも解説しているのでよければ参考にしてください。
笑いの根底には悪意に近いものがあり
一種のあざけり、嘲笑、軽蔑を含んでいるという考えに近いです。
この説の反証としては
- くすぐられた時に笑う理由が説明できない
- ホームレスの人を見ても笑わない理由が説明できない
などがあります。
安息説
この説は主に以下の人物によって考察されました。
- フロイト
- ハーバード・スペンサー
この説は笑いを生理的なプロセスと捉えています。
それは次のような過程で起こると想定されています
- 脅威や負の感情を感知する
- それに対処するため脳は「神経質エネルギー」を呼び出す
- その後、状況が変わってエネルギーの必要がなくなる
- 使われなかった余分なエネルギーを消費するため笑いが起きる
笑いは、緊張→安堵で起きるという考えですが以下のような反証があります。
- 脳内を流れる神経質エネルギーに該当するものが存在しない
- 現代的にはアドレナリンやコルチゾールなどが神経質エネルギーに近いと考えられるが笑いを通して消費させる必要はない。
不調和説
この説は主に以下の人物によって考察されました。
- イマヌエル・カント
- アルトゥル・ショーペンハウアー
この説は
笑いは自分の期待が裏切られた時(特に喜ばしい方で)に人は笑うとする考えです。
ジョークが「振り」と予想を裏切るような「落ち」で構成されているイメージです。
この説は体験的にはかなり納得できそうなものですが
以下の点で不十分さがあると指摘されています。
- 不調和を感じた時、笑う形で音声を出す理由が説明できていない
- 笑いに伴う音声が、笑いを聞いている側=社会的に利用される方法について説明がない
笑いは社会的に利用されている!
上記の3つの説はどれも部分的にはあっている点もありますが
どれも完全に笑いを説明したものではありません。
不調和説に対する指摘を見てもわかるように
笑う理由をいくら考えても
- 忍び笑いや含み笑いをする理由
- くすぐり、おふざけじゃれあいの時の笑い
などの説明が難しくなります。
そうなると「人はなぜ笑うのか」を考える際
笑う理由と一緒に「笑う目的」も考えなくてはいけません。
なので近代では、笑う時に行う
笑いは社会的なもの!?
- 声を出す
- 手を叩く
- 表情を変える
などの行動は、それを見ている周りの人たち
つまり社会に対する信号であり、笑いは社会的に利用されていると考えられています。
ロバート・プロヴァインの研究
笑いの新しい考え方についてはアメリカ人の哲学者/作家である
マックス・イーストマンなどが推測を行なっていたようです。
しかし、1990年代笑いに関する文献が推測に基づく理論ばかりで
実際のデータがかけていることに気付いた人物がいます。
それがメリーランド大学の神経生物学教授ロバート・プロヴァインです。
プロヴァインは笑いを犬や鳥の鳴き声と変わらない動物の行動として扱い
公共スペースで実際に調査を行いました。
そうすることでプロヴァインは笑いを実験的かつ生物学的に研究したのです。
プロヴァインは公共の場で聞こえる1200回の笑いを調査しました。
この研究の結果分かった2つの意外な結果があります。
ひとつ目は、
人は一人でいる時よりも、誰かといる時の方がプロヴァインの推定で
実に30倍もよく笑うということ。
そして最も驚くべき二つ目の発見は
聞いている人よりも話している人の方がよく笑うということです
(話し手が50%余計に笑う)。
笑いは受け身の反応であり、自動反射の心理的反応であるというよりは
積極的な社会的コミニケーションの一形態であると捉えることができるようです。
つまり笑いは社会的コミニケーションに関連する生物的機能であると考えられています。
笑いは遊びのシグナル説!
イギリスの人類学者グレゴリー・ベイトソンは動物園で見かけた2匹の猿から
笑いのコミニケーションとしての意味を説明しています。
ベイトソンが見かけた2匹の猿は格闘ゴッコ遊びをしていました。
そこでベイトソンが気づいたのは
猿には(これは遊びだよ)というメッセージを相手に伝える方法が必要だ!
つまり遊びである意図を伝達する何らかの手段が必要であると考えました。
仮に「遊びだよ」と伝えるサインがなければ
片方の猿が意図の解釈を誤り本当の喧嘩に発展してしまう危険性があります。
ベイトソンは猿が使う遊びのシグナルを伝える方法が何なのか特定できませんでした。
しかし、近年の生物学者遊びのシグナルを詳しく研究しています。
- 犬は遊びに入る前に「遊びのおじぎ」をする
- チンパンジーは口を開いて「遊びの顔」をか股の間から相手を見る
- 特定の仕草だけでなく、ゆっくり動く、大げさ、もしくは不必要な動きを多くの動物が行う
遊びのシグナル
- 笑う
- にっこりする
- 大げさに体を動かす
- ウィンクのように変わった表情を作る
- 甲高い声を上げる
これらのシグナルは遊び相手に自分の楽しい気分や親しみのある意図を見せて安心させる役割を果たしている推測されています。
この笑いはシグナル説は
人が「本気、あるいは危険すぎる」と誤解されかねない状況でよく笑うことや
「遊びの場」にできない状況では笑いを抑えることなどを説明できます。
まとめ
今回は笑いについての様々な考察や考えをご紹介しました。
実際には優越/安息/不調和説も部分的には合っていると言える場面も多いです。
笑い=「外からの刺激に対して、内から湧いてくるもの」と捉える考え方に対し
「外部に向けたメッセージ性のあるコミニケーションツール」として捉えた
笑いを遊びのシグナル説はとても面白い発想です。
私たちは
「ユーモアがあって笑いがある」と思いがちですが
発信者からの笑いがあって、遊びの場がつくられ、そこにユーモアがあって笑いが起きる
「笑い→ユーモア→笑い」ということなのかもしれません。