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笑いが生まれる要因:下方比較とシャーデンフロイデ〜笑いは全て優越感で説明できる?〜
もし皆さんの会社の社長や、怖い先輩が何もないところで盛大に転んだ時
大切な言葉を噛んで可愛い感じになってしまった時
皆さんはどんなに面白くても笑うのを我慢しませんか?
笑いは自然と湧いてきますが、笑うと失礼になる場面があるのはどうしてでしょう?

どうしてお笑い芸人さんはハゲていたり、太っていたり、ブサイクだったり
身長差のあるコンビを組んだり、コンプレックスを強みにできるのでしょうか?
プラトンやアリストテレスさらに17世紀の哲学者トマス・ホッブスに至るまで彼らは
「人が笑うのは、他者よりも自分が優れていると気づくことにある」と考えています。
今回は笑いが生まれる心理、下方比較と優越理論についてご紹介します。
シャーデンフロイデのユーモアの側面
人の不幸を喜ぶ感情をシャーデンフロイデということを前回解説しました。
シャーデンフロイデを求めて、相手を不幸にする行動をとったり
攻撃したりするのはよくないことですが
シャーデンフロイデには日常的な面白さのニュアンスもあります。
他人の不幸は微笑みを誘い、時には笑いの種になります。

笑いが起きることに関する心理学の説明には
下方比較とシャーデンフロイデの結びつきを示すものが多いです。
- 頭にタライが落ちてくる
- 熱々のおでんを食べさせられる
- 芸人さんのおかしな言動をツッコミに指摘され叩かれる
- 身体的コンプレックスをいじられる
- ドジやおっちょこちょいで皆んなの前で恥をかいている人
- 物見せ小屋やサーカスのピエロ
哲学者トマス・ホッブスの分析では
大抵の場合、笑いは突然の優越感に由来しているそうです。
さらに心理学者のトーマス・ウィルズの
「非力さを自覚した者」が突然の優越による喜びを感じやすい
という考えも併せて考えると
ユーモアの優越理論=笑いは瞬間的な優越感と下方比較
とが噛み合っている状態と考えられるのです。

多くの笑いは、他者に降りかかった不幸やネガティブな出来を
それを見聞きする物たちが喜ぶ形が取られます。
笑いと下方比較=他者が不幸だから笑える
前回、自分より下の人との比較(下方比較)をすることで、気力や自尊心を回復する心理や
からかうことで優越感を感じ相手をより好きになる心理について解説しました。
吉本新喜劇やバカ殿様、罰ゲーム、ツッコミなどを見てもわかるように多くの場合
笑いには下方比較や優越感が含まれるようです。
- 笑うことで優越感を得る
- 笑うことで笑われている人と自分を区別する
- 笑うことで、自分も笑う側の立場であると示す(アイデンティティシェアリング)
心理学者のチャールズ・グルナーはユーモアの優越理論を拡張し
笑いの経験を「勝利=欲しいものを手に入れる」に例えています。
グルナーの見解では面白さや笑いで大切なのは
- 誰が何を得たのか
- 誰が何を失ったのか
この2つにかかっているそうです。

すでにシャーデンフロイデや下方比較の記事を読んでいただいた方は気づくと思いますが
「他人が何かを失う」ことで「自分が何かを得る」のが笑いには欠かせません。
私達は笑った時点で、誰かの愚鈍さ、不器用さ、モラルや文化の中での欠陥があるとみなし
そこから自分の立場の安全性や優越感などを手に入れています。
「僕が指を切ったら悲劇。君が下水に落ちて死んだら喜劇:メル・ブルックス」
笑いの対象から見る心理
笑いは全てが優越理論で説明できるかはわかりません。
笑いは認知能力の高さや、笑うことで共感を示す
喜びからくる笑いなど種類はありそうです。
中でも
笑いの要因
- 期待していた内容と実際に起きたこととのズレ=不調和
- 苦しみやストレスからの開放=解除
などが笑いに関わっているとする考えなどもあります。
1990年以降の笑いについての研究について動画で解説!
ですが、今回紹介してきたウィルズやグルナーは、不調和や解除は優越理論の二次的なもので
優越こそがあらゆる笑いやユーモアの説明を可能にすると考えています。

またユーモアの優越理論は
集団間レベルの社会的比較で自尊心を高めることが実験でもわかっています。
内集団より外集団を軽んじるユーモアは、自分たちのグループや
自分自身の自尊心を高揚させるのに有効で、より笑いが起きやすく、気分を良くさせます。
- 先生のモノマネや馬鹿にして笑いをとる生徒達
- 貴族や政治家を馬鹿にする庶民:庶民を馬鹿にする政治家
- 外国より自国が優れていると感じさせる番組
優越説の立場から見ると
冒頭の「どうして社長や上司のミスを笑ってはいけない場面があるのか?」という問いの答えは
「笑うことで目上の人に優越感を抱いている態度を示すことになるから」と言えそうです。
笑いや優越理論に関する個人的な考え
人の心理や心の動きは一つの要因で決まっていない場合がほとんどです。
相手に笑われたからといって「私のダメなところを見て優越感を感じるな!」
と怒る必要はありません。
下方比較を行った対象には、優越感を感じるだけでなく
- 優しくしたい
- 守ってあげたい
- 親切にしたい
- 好意を感じる
などプラスの感情が湧くのも社会性を持って集団で暮らしてきた人間の本能です。

相手は下方比較を行い優越感を抱くと同時に、好意や、愛おしさなども感じている場合が多いです。
面白い人がモテたり、芸人さんが国を代表する女優さんと結婚されることが珍しくないのも
笑いの持つ多面的な要素が関わっているのかもしれません。
私の個人的な考えになりますが
- ドジで天然なアイドル
- 赤ちゃんや子供
- 動物の子供や可愛いペット
これらが可愛く感じ、多くの人に好まれる要因の一部に「優越感」が含まれているのかもしれません。
また芸人さんがハゲていたり、太っていたりコンプレックスを武器にできるのも
見る側の「優越感」を刺激しやすいためかも知れません。
アホの坂田師匠が、テレビでは自分を「アホアホ」言って笑いをとっているのに
プライベートでアホ呼ばわりされるとブチギレるエピソードも納得できます。
まとめ
今回は笑いについて「優越説」の立場から解説しました。
笑いには他にも様々な考え方が存在するのでまた書いていこうと思います。
飲み会で無茶振りされて、頑張って対応したのに、振った側がたいして上手に拾いきれなくて滑り散らかす、そんな経験ありませんか?
見ている人たちに、ボケのどこに優越感や好意を感じるのか、わかりやすく伝えるのがツッコミの役割だと思います。
ツッコミが下手だと笑いが起きませんし、差別的であったり、好意が全く沸かない点を強調し過ぎ、見ている側は引いてしまったり、イジメみたいで嫌だなと感じることがあります。
日常的に人をいじったり、笑いを取るときはあくまで「甘噛み」を意識し、好意を持てる面もしっかり指摘し、人を傷つけたり、人間性を貶めるだけの絡みはやめた方がいいと思います。
まとめ
- 笑いやユーモアの多くは他人の不幸から生まれている
- 他人の不幸は見る側に優越感を与える
- 下方比較からくる優越感と同時に好意も生まれる
- 内集団より外集団を対象にした方が人は笑いやすい