目次
人の不幸を喜ぶ感情「シャーデンフロイデ」3つのパターン
皆さん「人の不幸は蜜の味」という言葉をご存知でしょうか。
人の不幸を喜ぶ感情があることは昔から認知されてきました。
しかし、日本語や英語にはそれを表す単語がありません。
人が不幸になったとき、それを知って喜びが生まれる感情をドイツ語で「シャーデンフロイデ(schadenfreude)」と言います。
schaden(損害)+freude(喜び)=シャーデンフロイデは日本でも一般的な言葉ではありませんし、初耳の方も多いと思いますが、皆さん経験したことのある感情です。
今回はシャーデンフロイデがどんな時に起きやすいのかとシャーデンフロイデの3つのパターン妬みとの結びつきを解説します。
シャーデンフロイデ: 人の不幸を喜ぶ私たちの闇
シャーデンフロイデが生まれやすい対象
ある条件に該当する人が不幸になると、シャーデンフロイデを感じることがわかっています。
シャーデンフロイデが生まれやすい対象は以下の通りです。
- 自分に不当な扱いをした相手
- 自分が劣っていると感じさせられた相手
- 幸福が相応しくないと思っている相手
- 不幸が相応しいと思っている対象
- 不幸になることで自分が優越感を感じられる対象
- 偽善者
- 復讐したい対象
- 不公平を感じる事
- 妬んでいる対象
シャーデンフロイデは、個人間だけでなく、集団と集団、集団と個人、スポーツ、政治など様々な場面で現れます。
シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 (幻冬舎新書)
シャーデンフロイデの例
シャーデンフロイデは日本語で言うと「ざまあみろ」とか「それ見たことか」のような表現が近いようです。
いくつか例をあげると
- 自分のミスを厳しく指摘してくる先輩が、仕事のミスで上司に怒られた時
- ライバルチームのエースが怪我をして喜ぶファン
- 楽してお金持ちになったと思っている人の不正発覚
- 不倫をした人が社会的な制裁を受ける
などです。
シャーデンフロイデは特に「妬み」の感情と結びついている場合が多いと考えられています。
ですが「妬み」という感情は、受け入れることが難しいため、正義感や、自己防衛、正当な理由など様々な認識に七変化する性質があります。
ですので「シャーデンフロイデ」が自分の「妬み」が原因で起きたと気付きにくい場合がほとんどです。
不幸な状態にある人に「同情や」「哀れみ」「慈悲」などの感情を感じるのは、ほとんどが妬みを感じていない場合です。
シャーデンフロイデ3つのタイプ
アメリカのエモリー大学は過去30年の研究論文をレビューしてしてシャーデンフロイデを大きく3つのタイプに分類しています。
- 区別系
- 競争系
- 正義系
それぞれの特徴について簡単に説明していきましょう。
区別系
自分が所属しているグループを正当化するために他人の不幸を喜ぶタイプです。
スポーツや政治など、ライバルのミスを喜び、あちらとこちらの集団を区別します。
「あちらと違ってこちらは安心」と、いじめや過剰な罰が見過ごされる原因にもなります。
競争系
競争は自分よりうまくやっている人への妬みや劣等感を生みやすくします。
その妬みや劣等感が原因となり人の不幸を喜びます。
有名人や成功した人ほど週刊誌、ネットの炎上で失態を必要以上に厳しく叩かれます。
妬むほど、羨ましいと思っている人が恥をかき、没落するほど喜びは増します。
悪性の妬みと深く結びついています。
正義系
他人が不幸になっているのを喜びながら「これは正義のためなんだ」と本人の中で認識がすり替わっているタイプです。
相手を罰しても、自分にさほどメリットがなく、時間や労力をかけるのが合理的でない時でさえ正義感に突き動かされて行動する場合もあります。
「こうするのが正義」「社会のため」と正当な理由を作り出すため、歯止めがかかりにくいタイプと言えます。
高い協調性の性格特性と結びつきが示唆されています。
妬み/シャーデンフロイデを感じたときの脳の反応
京都大学大学院医学研究科の高橋准教授によると
妬みを感じた人の脳では「前部帯状回(ぜんぶたいじょうかい)」の上部が活発化することが分かっています。
これはとても興味深い現象のようです。
なぜなら「前部帯状回」は身体の痛みの処理に関係する部位だからです。
「妬みとは、心の痛みである」脳科学的にも、心の痛みである妬みが、身体の痛みと共通のメカニズムで処理されている可能性が高いことが示唆されています。
それに対してシャーデンフロイデを感じた人の脳は「前部帯状回」の活性が低下し、「報酬系(ほうしゅうけい)」と言われるネットワークの一部である「線条体(せんじょうたい)」が活性化します。
線条体はもともと、美味しい食べ物や、お金など報酬を得た時に反応することで知られる部位です。
どうして週刊誌のような「赤の他人」のゴシップを取り扱うビジネスがあるのか、有名人のアンチの行動力と執着性、自分の時間やリソースを割いてまで人を不幸にしようとする動機。
それらはこの「報酬」を得られるのと同じ脳の反応が関係しているようです。
シャーデンフロイデを感じる事が脳にとっては報酬と感じるのです。
また、高橋准教授の実験では
「妬みに関する前部帯状回の活動が強い人ほど、妬ましい人に不幸が起こった時の線条体の活性も強くなる傾向にある」ことが分かっています。
人を妬むほどに痛みを感じ、痛みが大きいほど、相手の不幸に喜びを感じるというわけです。
脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体
シャーデンフロイデの研究で分かってきたこと
これまでは人の不幸を喜ぶ人の心理(シャーデンデンフロイデ)は
- 複雑で高度な人間らしいもの
- 計算高く考えを巡らせて初めて生まれる
と漠然と考えられてきました。
しかし、シャーデンフロイデに関する近年の実験結果では
- 自動的に(自動思考)脳内に沸き起こる
- 昔からある原始的な感情
- 脳内に他人の不幸を喜ぶ回路が存在している
- 意識とは無関係に働く
ことが分かっています。
ですのでシャーデンフロイデを感じている人に「あいつは人の不幸を喜ぶようなよくない人間だ」と考えるのは少し的外れです。
これはヨーロッパのカトリック系の方々には「人間は生まれ持って不道徳な回路が埋め込まれている」とうつり、宗教的に容認しにくい側面もあるようです。
あなたの不幸は蜜の味 イヤミス傑作選 (PHP文芸文庫)
↑このブログのシャーデンフロイデ関係の記事を見て頂いてから読むと尚更面白い短編集小説です。心理動作の描写がどの作品も秀逸でとても引き込まれます。
シャーデンフロイデとの向き合い方
シャーデンフロイデを感じるのは仕方ないことですが、シャーデンフロイデを求めて人を不幸にする行動を積極的にとることは有益とは言えなさそうです。
なぜなら、人が不幸になって落ちて行っても、自分が成長して上がったわけではないからです。
シャーデンフロイデで得られる一時的な快楽はすぐに無くなり、惨めな自分だけが残ります。
シャーデンフロイデのメカニズムを知ることで、自分が何に不満を感じているのか、何を求めているのかを知り、それを獲得するために行動を起こすことが有意義だと思います。
シャーデンフロイデが過剰になって人を傷つけないようにするには過去に紹介した脱フュージョンやアクセプタンス、嫉妬を力に変える心理学を参考にしてみてください。
まとめ
シャーデンフロイデを感じた時に、醜い感情だと思って自己嫌悪する必要はありません。
人の不幸を喜んでしまう脳のシステムは皆んなに組み込まれており、喜びが湧いてしまうのも自然なことです。
ただ、その感情に身を任せるのではなく、自分がどんな生き方をしたいのか、人生の価値を思い出したり、自分が妬みを感じた理由や思い込みに目を向けたりすることで、良い行動に結びつけるきっかけにできます。
これからもシャーデンフロイデについてまとめていこうと思います。
まとめ
- 人の不幸を喜ぶ感情をシャーデンフロイデと呼ぶ
- 妬んでいる対象にシャーデンフロイデを感じ易い
- シャーデンフロイデは3つのタイプに分けられる
- 脳は妬みで「痛み」を感じる
- 脳はシャーデンフロイデを「報酬」と感じる
- シャーデンフロイデは脳に備わった回路で自然と心に湧き上がる