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下方比較/あの人よりマシだから幸せ!人を蹴落とす心理とからかうことのメリット
他人が不幸になった時に感じる喜びのことをシャーデンフロイデと言い、人間の脳内では、報酬=お金やご飯をご馳走してもらったときのような反応が起き喜びを感じます。
人間は常に自分と周りの人間を比較して生きています。
シャーデンフロイデは、社会的に上の人が不幸になると喜びを感じるケースが多いでが、社会的比較は自分より下の立場の人にも行われます。
それが下方比較です。
相手を引き摺り下ろす、もしくは自分と比較して相手が劣っていると感じると、人の心の中では自尊心が回復し気力が湧き、強い優越感を感じる場合があります。
それらの心理動作や社会で実際に行われている場面などを解説します。
格差は心を壊す 比較という呪縛
下方比較は2パターン
私達は普通、誰かが苦しんでいたり、不幸になっていれば、共感したり、憐んだり、不快感を抱く物です。
ですが心理学者のトーマス・ウィルズは、私たちが相手の不幸を求めてしまう場合があることを主張しています。
私達は、自尊心が低い時や、自分たちが苦しい時は、より一層不運な人達と比べることで自尊心や気力を取り戻し、幸せの感覚を強めると言うのがウィルズの考えです。
自分より社会的に下だと感じる人と、自分自身の比較=下方比較には2つのパターンがあります。
- 受動的(自然に周囲で起きた機会)
- 能動的(人を貶めるように行動し、わざと傷つける)
恐ろしい話ですが、人は下方比較による自尊心や気力の回復、優越感などを得るために人を攻撃する場面があるというのです。
ウィルズによると、そんな下方比較のターゲットになるのは「立場の弱い安全なターゲット」
その多くは「攻撃する側が属する文化の中で、いくら蹴落としても構わないとお墨付きが与えられている者」だそうです。
下方比較で自尊心が回復する
先ほどのトーマス・ウィルズの考えは
オランダの心理学者たち(ウィルコ・ヴァン・ダイク/ヤープ・アウウェルケルク/ヨカ・ウェッセリング/ギード・ヴァン・コニングスブルッゲン)による一連の研究で裏付けがなされています。
その結果は
- 自尊心の低い人ほど人の失敗に微笑んだり楽しさを感じる
- 自己肯定感が高いと人の失敗もあまり喜ばない
- 人の失敗や自分より下の人を見ると自尊心が回復する
自己肯定感が低い、自分自身を快く思っていない人ほど自分と比較して下の立場の人をた時
自尊心が回復し、優越感を感じることが実験でも明らかになっています。
日本のロックバンド/ブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」の歌詞にもありますが
「弱い者達が夕暮れさらに弱いものをたたく」は、下方比較の観点からはとても的を得た表現と言えます。
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からかうことの社会的メリット
社会的比較や下方比較のよく無い面ばかりご紹介してしまいましたが、社会的比較にはコミニケーションを円滑にする効果があることもわかっています。
その代表的な例が、能動的な下方比較の一種「からかう」です。
からかい合うことは、お互いの好意的な気持ちを高めるのにもっとも即効性があり効果的な方法の一つとされています。
カリフォルニア大学の向社会的感情研究者のダチャー・ケルトナーは、からかい合うことで起きる感情の挑発が「信頼」と「好意」の二つの感情を刺激する効果を生むと解説しています。
- ネガティブな感情をおだやかに引き出すことを許容する
- 少量の怒りや痛みや恥ずかしさを生み出す刺激となる
わかりにくいと思うので解説します。
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①信頼を確かめ合う
からかい合うことで、相手を傷つけることができることを示しながら、同時に傷付けるつもりはないことを示す。
これは、犬がほかの犬と友達になりたくて甘噛みするのと同じような心理です。
からかわれる側は、からかいを許容することで、弱い立場(一時的であれ)に身を置く意思を示します。
からかう側が自分の感情的幸福に配慮=こちらを本気で傷つけないようしてくれるはずだ、という信頼感を積極的に示しているのです。
②社会的地位からくる優越感を感じさせる
からかわれる側は、相手に社会的関係性の中で、高い地位にいる事実を享受するひとときを提供しています。
からかう側に高い地位を経験させることで、好意的な感情が強まります。
人は自分の社会的地位を高めてくれる人を好きになる性質があります。
ケルトナーの研究によると
からかわれた側は、たいてい馬鹿にされたという反応を示し感情を調整しようとする仕草をします。
- 嫌悪の表情で見つめる
- 頭を振る
- 引きつった笑いをする
- 顔を手で触る
そしてこれら一連の動作の後に一瞬微笑みます。
これは信頼する人からからかわれていることを実は楽しんでいる微妙な表情です。
からかう側は相手の地位が落ちたことがはっきりすればする程、からかわれた側を気に入ります。
これらの2つは意識して行われているものではないこともケルトナーの研究でわかっています。
からかう側が「甘噛み」以上のからかいをしてしまうと「信頼」も「好意」も発生しないので注意が必要です。
社会問題と下方比較
これまでの下方比較の解説で推察できるのは
自尊心の低い人の前に
- 明らかに間違いを犯し
- 社会的に立場が下がり
- 社会的に攻撃しても安全
な相手が現れると、能動的に攻撃をする可能性が高いということです。
酷い場合は、攻撃しても自分が正当化されるように相手を貶めたり、わざとミスに誘導したり、誤情報を流すなど積極的に行動する人もいます。
さらに、協調性や集団、匿名性などがプラスされるとその傾向はさらに強まっていくようです。
日本人が欧米の方に比べ自尊心が低いのは言うまでもありません。
そんな日本人は自分より下の攻撃しても良い相手を見つけると一斉に攻撃する傾向があるのかも知れません。
攻撃する側は正義を振りかざし、見るからに問題解決や、改善に役立たない、ただの時間と体力の無駄と感じるような行動もとります。
それらの誹謗中傷や、炎上、バッシングなどが減らない理由の一つは、能動的な下方比較による自尊心や気力の回復と優越感の獲得、シャーデンフロイデなどが要因といえそうです。
シャーデンフロイデ: 人の不幸を喜ぶ私たちの闇
自尊心を高める教育の危険性
セルフコンパッションのクリスティーネフさんはカリフォルニア州を中心にアメリカで広く行われた自尊心を高める教育は良い結果をもたらしていない事に言及しています。
セルフコンパッションの大規模実験で分かったことの一つに、自尊心の高い人は社会的比較が強いという結果もあります。
日本でもアメリカのように子供の自尊心を高める教育を求める方が多くいらっしゃます。
うつ病のような低すぎる自尊心は健全とは言えませんし、適度な自尊心は必要です。
ですが、高過ぎる自尊心も社会的比較によってもたらされた物なら、妬みや、復讐、報復などの感情と結びつきやすく、アメリカでも長期的なデメリットが危険視され初めているようです。
- セルフコンパッションのように社会的比較とは違う側面で自分や人とつながる方法をトレーニングする。
- 筋トレや学習、成功体験を通して自分は変われる、成長できると感じる自己効力感を高める
- 成長マインドセットを意識してしなやかな心のあり様を目指す
これらの方法を推奨する研究者も増えてきています。
マインドセット:「やればできる!」の研究
まとめ
「もし我々が欠点をもたなかったら、ほかの人の欠点に気付く場合に、こうまで嬉しくは無いはずだ」
これはフランス17世紀の作家フランソワ・ド・ラ・ロシュフコウの格言です。
下方比較でもたらされる自尊心や気力の回復、優越感は誰でも感じる物ですが、それを得るために行動したり人を傷付けたりするようにはなりたくない物です。
まとめ
- 自分より低い立場の人と比較すると自尊心などが回復する
- 下方比較を能動的に行う人もいる
- からかい合うことで信頼と好意が高まる
- からかう側の度が過ぎたり信頼を欺くからかいは逆効果
- 自尊心を高めるだけでは能動的な下方比較は解決しない