目次
セルフコンパッションと混同されやすい心理状態
前回紹介したセルフコンパッションは3つの要素から構成されています。
- 自分に優しくする
- 繋がりを感じる
- マインドフルネス(気づき、ありのままに受け入れる)
セルフコンパッションで自己批判を和らげ、自分を労る姿勢を養う事ができます。
ですが自分を労った結果、以下の様な心理状態になることを期待したり、セルフコンパッションのメリットだと混同してしまう事がよくあります。
- ポジティブシンキング
- ナルシシズム
- 自己満足
- 自己憐憫(れんびん)
- 自尊心
これらは少なすぎても、多すぎても良くない感情です。一つずつみていきましょう。
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ポジティブシンキング
セルフコンパッションはポジティブシンキングを目指すものではありません。
確かに、セルフコンパッションを行う事でもたらされる、落ち着きや、希望的な考えは、自己批判から解放され、人生の質を改善する行動に繋がることもよくあります。
ですがそれは二次的なもので、自分を労ることと、ポジティブシンキングは違います。
このブログでも度々紹介しているセルフコンパッションの著者であるクリスティーネフさんは現代の「ポジティブシンキング」には否定的です。
カリフォルニア大学の研究でも「ポジティブ思考を使って過去の後悔を乗り越えた人には進歩が見られなかった」とする研究や
「WILLPOWER 意志力の科学」のロイ・バウマイスターも「自信が有るかどうかは能力や成功とは全く関係がない」と報告しています。
セルフコンパッションで気持ちが前向きになることはあると思いますが、必要以上に気分を盛り上げようとせずに、構成要素の一つ、マインドフルネスの持つ「ありのまま」を意識しましょう。
WILLPOWER 意志力の科学
ポジティブシンキングとポジティビティ
行き過ぎたポジティブシンキングは現実逃避に近くなってしまい、その様な状態は心的疾患の一つポリアンナ症候群として楽天主義の負の側面とされています。
ですが「Positivity(ポジティブな人だけが上手くいく3:1の法則)」の著者で心理学者のバーバラ・フレドリクソンは
ポジティブな感情が危険を回避するのではなく、危険を機会として利用することを可能とする生き方=ポジティビティ(積極的な生き方)を説明するのに「拡張ー形成理論」を提唱しています。
ポジティブな気持ちは現実から目を背けたり、苦しみを受け入れないためではなく、感情と心を開き、受容的で想像的にしてくれるのに役立つ。
これががフレドリクソンの考え「ポジティビティ」です。
ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則
ナルシシズム
セルフコンパッションの自分への労りと、自己愛を強化することは混同されやすいです。
ナルシシズム傾向の強いナルシストは、自分を磨くために努力をする傾向もみられ、自己愛も適度には必要なものです。
しかし、ナルシシズムが過度になると、自己愛が強まりすぎ、自分の能力は他者より優れていると思いこみ、時に自己中心的になってしまいます。
「ナルシスト」は、他者も自分へ強い興味があると思い込み、自分のことを話しすぎたり、自分優位の思い込みを、直接的に示し、他者に隠そうとしない傾向があることもわかっています。
さらに、ナルシストとは別に、今増えているのが隠れナルシストです。
人間には元々「自分の能力は平均以上だ」と思い込む強いバイアス(レイク・ウォビゴン効果、平均以上バイアスなど)が存在しています。
これが強くなりすぎた隠れナルシストは、心の中で「周りの人は皆んなバカ」「あの位、私もできそう」「あの人は別に大したことない」「誰も私を理解してくれない」など思い込むようになります。
自分は行動せずに、他者を下げることで自分の立場を向上させる心理に陥りやすく、成長しません。
セルフコンパッションを、他者と比較した自己愛や、ナルシシズムと履き違え、自意識だけは高いのに、能力が伸びていかない、けれど周りには批判的な人間になってはいけません。
他者と比較して考えるのではなく、セルフコンパッションの要素「繫り」を意識してゆっくりと、時間をかけてエゴを小さくしましょう。
自分をよく見せる事に一生懸命になるより、本当に価値を見出せるものに時間や意識を持って取り組んでみましょう。
自己満足
自分がミスを犯し、自己批判的になって、自分を貶め苦しんでも、行動や成長には繫りません。
セルフコンパッションで、自己批判的になり、傷ついている自分を労ってから、原因や解決策に照準を合わせて少しずつでも行動していく事が大切です。
セルフコンパッションは他者との比較ではなく、マインドフルにありのままの自分を受け入れることで、自分自身への満足度が向上する事があります。
しかし、常に自己満足を目指して行うものではありません。
自分が間違っていたという感情から逃れたいがために「自分は正しかったんだ」と思い込もうとしてしまう事があります。
実際は上手くいかずに、落ち込んでいる場面で、本当は上手くいったと自己暗示をかけ、結果に満足しようとするのはただの自己満足、セルフコンパッションではありません。
上手くいった面と、良くなかった面を冷静に区別して考えることはいいことですが、落ち込んんだ気持ちを無視して自己満足へ導くのは自分を欺(あざむ)く事になります。
成功するには ポジティブ思考を捨てなさい 願望を実行計画に変えるWOOPの法則
自己憐憫
憐憫(れんびん)という感情や言葉は本来、人の悲しみや不幸に対して同じように悲しみあわれに思うというように、他人に対して抱くものです。
これはセルフコンパションの「繫りを感じる」に近く、マインドフルネスや瞑想のもとになっている仏教の「慈悲」に近い考え方です。
それを自分にだけ向けてしまうのが、自己憐憫です。
セルフコンパッションは、傷ついている自分を労ることが目的の一つですが「自分だけが傷ついている、可哀想で、哀れ」と自己憐憫が強まると話は変わってきます。
自己憐憫が強まると、自分が不完全であるほど、孤立した弱い存在であると感じる悪循環へ陥ります。
構成要素の一つ「繋がり」を感じる側面から遠ざかってしまうのです。
私達は不完全であると言う共通の人間性で、過去、現在、未来の人々や歴史と繋がっている=繋がりを感じてください。
自尊心
自尊心はなくてはならない感情の一つ、鬱病患者は自尊心が著しく低下していることもわかっています。
アメリカを中心とした教育文化では、自尊心を高めることが大きな目標に掲げられ、日本でもその流れは強まってきています。
ですが、どんなものにも適性な量があり、セルフコンパッションの著者であるクリスティーネフさんは現代の「自尊心を高める教育」が上手くいっていないこと、さらに弊害について言及しています。
セルフコンパッションと自尊心の大規模実験
ルース・ヴォンク(Rose Vonk)は異なる業種の3000人を対象にセルフコンパションと自尊心に関する研究を行いました。
その結果、自尊心と比較してセルフコンパッションの程度が高い人ほど
- 社会的比較が少ない(自己批判も少なくなる)
- 個人的な侮辱に対して報復する必然性が低い
- 認知的完結欲求(自分が常に正しくないといけない)との結びつきが低い
これらのことががわかりました。
そのほかの実験でも
自尊心が高い人は、自己愛的であること、他者の反応が良かった時だけ懸命に努力する事、好ましくない事実に直面すると回避的で非生産的な戦略を取る可能性が示唆されています。
個人的寓話(こじんてきぐうわ)
自尊心が高まりすぎる影響は、特に10代の若者にみられる事がわかっています。
若者の内省が、自分の経験は優れているために、他者は自分の体験していることを理解できないと考えること
=「個人的寓話(自分は特別で独自の存在であると言う信念を持つ事)」
と言う考えを強めてしまうのです。
自分の思考や感情が優れていない事に気付けるほど人間関係を経験しておらず、人間に共通する「繫り」や経験を理解するのが難しいためです。
彼らが知っている事が、そのまま彼らの限界であるため、他者以上に物事を知っていると自分を過大評価してしまいます。
その結果、他者との比較に思考が向きやすく、自己批判や、誹謗中傷、報復などの結果に結びつきやすくなってしまうケースがあります。
セルフコンパッションは自分のイメージを常に好ましく保とうと管理するのではなく、全ての人間は強さと同時に弱さを併せ持つ事実を高く評価しています。
まとめ
今回紹介したセルフコンパッションと混同されやすい心理状態はどれも、過度になってしまうとトラブルの元になります。
ですので、セルフコンパションがこれらを増やすために行うものだと勘違いしないよう注意しましょう。
またセルフコンパッションは行った途端に、魔法の様に自分が変化するものではありません。
労る、許す、理解するなどにはどれもそれなりに時間がかかります。
焦る事なく、時間をかけて取り組んでみましょう。
まとめ
- 強すぎるポジティブシンキングは現実逃避に近い
- 自己愛より共通の繋がりを理解しよう
- 自己満足を求めると事実への受容が適切でなくなる場合がある
- 自己憐憫より他者思考な慈悲の感覚を養おう
- 自尊心を高めるより、ありのままの自分を認めよう