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日常で役立つセルフコンパッションの人間関係での役立て方〜友人・仕事・子育て・恋愛〜
セルフコンパッションは「自分自身に優しくする」考え方です。
このあり方は、自分に対してだけでなく、人間関係や、教育、パートナーとの間でも力を発揮します。
それはセルフコンパッションを鍛える事で得られる次の特徴が関係しています。
- 社会的比較の低下
- 自己を労るセルフケアに意識が向く
- 完璧主義傾向が弱まる
- 繋がりを感じ共感的である
今回は日常の人間関係の中でセルフコンパッションがどの様に力を発揮するかををご紹介します。
セルフ・コンパッション―あるがままの自分を受け入れる
友人関係
セルフコンパッション能力が高い人は良い友人ができやすい事がわかっています。
自尊心が高く、社会的な比較が頻繁な人は、彼らを不機嫌な気持ちにさせる成功者と距離を置く様になります。
社会的比較が成功者と距離を取らせることは心理実験でも確認されています。
前回の記事で紹介したルース・ヴォンク(Rose Vonk)の実験でもわかるように、セルフコンパッションができる人は自尊心が高い人より、社会的に相手と自分を比較する傾向が少ないのです。
素晴らしい人物と交流しても劣等感を感じずに良いところを見習ったり、関係を深める事ができます。
仮に、能力の高い人、優秀な人と巡り合った時、社会的比較が強く劣等感を感じてしまいやすい人は、自分の尊厳を守るために妬みの感情や、彼らの能力は意味がない、役に立たない物だと感じてしまいやすいです。
あなたはなぜ「友だち」が必要なのか
セルフコンパッション能力が高い人は支援的
セルフコンパッションの程度が高い人は、セルフコンパッション能力が低い人に比べ、友人関係を築く上で違った目標を持つ事が実験により明らかになっています。
セルフコンパッションの程度が高い人は、友人の失敗や弱さに対して慈悲的で、友人を援助して勇気付ける傾向があるため信頼や親密さが高い,互いに援助的な交友関係を築く事ができます。
仕事
セルフコンパションの友人関係でのメリットは恋愛や仕事関係でも力を発揮します。
さらに自分を労われる能力から次のような職業でも特に効果がある事がわかっています。
思いやり疲れ(共感疲労)
看護師、介護者、カウンセラーなど他者を支援する職業の人に多いのが共感疲労症候群です。
このような職の人は患者のトラウマを追体験してしまい以下のような状態になる事があります。
- 疲労
- 燃え尽き症候群
- 悪夢
- 感情が鈍くなる
- 過剰な驚愕反応
- 安心感の減少
- 皮肉な態度の増加
共感疲労は「二次的外傷性ストレス症候群」とも呼ばれ、共感的で感受性豊かな人ほどリスクが増加します。
この共感疲労を経験する頻度が、セルフコンパッションを鍛えると減少する事が研究でわかっています。
セルフコンパッションを鍛えた人は自分の行動と社会貢献できることへの喜びや幸福感『共感満足(compassion satisfaction)』が結びつきやすくなります。
さらに自分へも慈悲の心を向けるため、食事、睡眠、休暇など具体的なセルフケアに積極的に取り組み、結果共感疲労が低下していきます。
このような専門職でなくても、後輩の相談によく乗る人や、人の愚痴をよく聞かされる人には効果がありそうです。
スタンフォード大学の共感の授業――人生を変える「思いやる力」の研究
育児/子育て
育児は様々な場面で理想を思い描いてしまします。
こんな子供に育ってほしい、こんな親になりたい。
この考えが強化されてしまうと、子供はこうでないといけない、親はこうあらなければいけないなど完璧主義傾向が強まりやすいです。
しつけと思い、子供の行動を頭ごなしに注意してしまいがちです。
クリスティーネフらの研究では、親による継続的な批判を受けた子供はセルフコンパッションが低く、大人になって不安や抑うつに悩まされる傾向があります。
ですが、全く叱らない「なすに任せる」育児も子供の成長と発育を疎外します。
セルフコンパッションを高めた親は、教育の場面で、以下のことを行いやすくなります。
- 子供の性格ではなく行動に注意を向ける
- 失敗や欠点ではなく、成長と継続的な学習が評価されると伝える
- よくない行動の裏に潜んでいる感情を確かめる
- 失敗や不完全さは人間の一部であると伝える
「よくない行動の裏に潜んでいる感情を確かめる」とは、子供が何かよくない行動をした時に、まずは行動の裏にある感情を理解したり共感したりするという事です。
頭ごなしに「止めなさい」「あなたは何でそんな事するの」という言葉は、子供にとって理解されていないと感じる瞬間です。
まずよくない行動をしてしまった感情に共感してから、その行動をやめた方がいい理由を言った方が子供たちはあなたの言葉に耳を貸すようになるでしょう。
これは大人に対する説得でも同じ事が言えます。
しかし、子供はすぐに言うことを聞いてくれません。
時には親が我慢の限界で子供に感情的な言葉や行動をぶつけてしまう時もあります。
そんな時は親としての自分の間違いや、不完全さにセルフコンパッションを向けるようにしましょう。
大切なのは声のトーン/アフェクティブ・アタッチメント
まだ言葉を喋れない乳児や幼い子供でさえ、親の声のトーンから怒り、愛情、緊張、などを読み取っている事がわかっています。
母親は泣き止まない乳児に対して、優しい言葉を、優しいトーンで話しかけることによって心を落ち着かす事ができると本能的にわかっているようです。
子供と親の愛着(アタッチメント)は0〜1歳の間に大部分が形成されますが、それ以降も、子供は様々な挑戦をするための安心できる基盤として親を利用しています。
子供が遊びや発見、探究、挑戦、学習の重要な活動を行うためには自分が安全だとわかっている必要があります。
オーストラリアの臨床心理学者レベッカ・コールマンが勧める、親が子供に安心感を与えるための声のトーンを使ったコミニケーション方法、それが「アフェクティブ・アタッチメント」です。
混乱状態では特に、子供は親の状態を模倣します。
まず、子供が泣いているときや、混乱しているとき、親は悲しんでいる声や表情を発して子供を模倣し共感を示します。
続いて落ち着いた表情と声のトーンを用いて子供の感情をなだめます。
もし、子供に対して感情的に激昂してしまった場合、子供は親の興奮を模倣するのでさらに混乱状態が高まってしまいます。
子供のしてしまった行動などに、親が失望や怒りを感じている時は、まず親が自分自身にセルフコンパッションを向ける事が第一です。
成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか
恋愛/パートナーとの関係/ヨハネ黙示録の四騎士
心理学者のジョン・ゴットマン(john gottman)は良好な恋愛関係研究の第一人者であり、彼は喧嘩したカップルを観察すれば、彼らが別れるかどうか91%の確率で言い当てる事ができると主張しています。
どのカップルも喧嘩はします。
その喧嘩の中でゴットマンが「ヨハネ黙示録の四騎士」と呼んでいる特徴が出るかどうかが問題だそうです。
その四つとは、重要度の高い順に
- 批判
- 軽蔑
- 防衛
- 無視
です。
喧嘩が起きた時に相手を強く批判し、皮肉めいた言葉で軽蔑を示し、自分の身を守るために相手を貶める、無意味だと断じる、責任を押し付ける、拒絶や無視などが起きている場合91%の確率でそのペアは解消される。
それがゴットマン長年の研究から分かった彼の理論です。
ですが、ありがたいことに、ゴットマンは「幸福で長続きする関係の特徴」も報告しています。
それは喧嘩中であっても
- 優しい眼差し
- 愛情表現
- 謝罪
- 笑顔
など、喧嘩の最中に恋人たちがポジティブな感情を示した場合です。
セルフコンパッションは自尊心や、エゴ、自己防衛を遠ざけ、慈悲や許し、失敗への優しさに心を向かわせてくれます。
パートナー同士のセルフコンパッションを鍛えることで、科学的に安定して長続きする満足度の高いカップルに近づきます。
カップルの会話にはアサーションを参考にしてみることもお勧めします。
夫婦・カップルのためのアサーション: 自分もパートナーも大切にする自己表現
まとめ
テクニックと聞くと、恋愛テクニックや、仕事でのテクニックのようにカテゴリー内でしか使えない技を連想してしまいます。
ですがセルフコンパッションや、マインドセット、NVC、ACTのように、友人、ビジネス、恋愛、子育てに広く応用できるものも数多く登場しています。
友人関係や、恋人関係、親としての在り方は学校で習う機会は少ないですが、これらのテクニックはヒントをくれます。
どれか自分に合いそうなものを探してみたり、各テクニックのいいと思えるところを実践してみたりしても面白いかもしれません。
まとめ
- 素敵な友人とも劣等感を感じず交流ができる
- 人を支援し親密でな信頼関係が築ける
- 共感疲れを感じたらセルフケアができる
- 子供に安心感を与え、親としの自分も労える
- 長期的で幸福度の高いパートナー関係が期待できる