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夢は心の傷を癒す!夢の持つ重要な役割「夢は夜間セラピー仮説」
睡眠について多くの人がイメージしているであろうことはただの「長い休憩」だと思います。
それは、寝ている間は何もできず、受け身=受動的である感覚ではないでしょうか。
ですが実際はそうではありません。
睡眠の間に身体は、ホルモンを整えたり、脳の周りの汚れた水を取り替えたり、記憶を整理したりと、寝ている間にしかできない様々な活動を行っています。
睡眠は受け身なだけの長時間休憩ではなく、かなり活動的なものなのです。
その中でも今回は睡眠中に見る夢と、ストレスや記憶と感情に及ぼす効果について解説したいと思います。
夢は何に影響されているのか
夢は毎晩、レム睡眠(浅い眠り)の時にリアルタイムで5種類ほどみる事がわかっています。
カリフォルニア大学で研究を行い、初期の夢研究でリーダー的役割を果たした睡眠学者のウィリアム・ダンホフの発見で以下のことがわかりました。
- 人は自分が見た夢の中で異常なものを記憶することが多い
- そのため夢は全て異常だと思いがち
- 主役は自分で、視点も自分であることが多い
- 夢は日常で実際起きたことと関連する
- 昼間どんな体験をしようと、夢の8割はマイナス感情が現れる
さらに、夢が何に影響されるのかについて詳しく調べたのがハーバード大学のロバート・スティックゴールドです。
彼が集めた299の報告のうち「昼間の経験」が影響したものはわずかに1%〜2%のみでした。
スティックゴールドが発見した、一番強く夢とのつながりがあること、それは経験ではなく「覚醒中に感じた大きな感情や心配事」だったのです。
なんと「覚醒中に感じた大きな感情や心配事」のうち35〜55%は、その日の夢に、はっきりとわかる形で登場していました。
どうしてこれほどまでに夢とマイナス感情、不安などが関連しているのか。
それについて研究を始めた科学者達が提唱した「夢は夜間セラピー仮説」は現在では多くの裏付けがなされ、かなり信憑性が高いものに発展しています。
「時間が解決する」なんて言葉がありますが、本当に私達の心の傷を解決してくれるのは「夢」である可能性が高いのです。
夢は夜間セラピー仮説を裏付ける実験
夢は夜間セラピー仮説を裏付ける初期の実験では、参加者を集め検視解剖の映像を見せて心的ストレスを与えました。
その後、参加者は2つのグループに 分けられ、実験室で一晩眠りました。
その睡眠中に、片方のグループは夢を見始めたら起こされ、もう片方は、夢を見ていない時に同じ回数だけ起こされまいた。
翌朝、再び同じ検視解剖の映像を見せられた参加者は、夢を見ることの出来たグループの方が恐怖感やストレスが少ないと報告したのです。
このような初期の実験を受けてラッシュ大学メディカルセンターの睡眠学者ロザリンド・カートライトは、離婚など精神的に酷く落ち込み、抑うつ症状を見せる女性たちの夢を研究しました。
カートライトは彼女たちの心の傷が生々しく残っているうちから彼女たちの夢を記録して、内容を解析し、覚醒中の感情と比較しました。
その後も1年間の追跡調査を行い、抑うつや不安が解消されたか否かを判断しました。
結果、カートライトは「トラウマになるような経験をした後から、その体験の夢を見た人だけが、その後に抑うつを脱し、心の問題を解決した」と報告したのです。
このことで、「夢は夜間セラピー仮説」は、夢を見るだけでなく、辛い経験や、不安と関連した夢を見る必要があることがわかりました。
カートライトらの実験により生物学的だった「夢は夜間セラピー仮説」は心理学の実例からも証明できることが明らかになり、今では鬱病やPTSD治療に応用されるようになっています。
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なぜ夢で過去の心の傷が癒えるのか
どうして辛い体験や不安に関連する夢を見ると、それらが軽減するのかについてはいくつか説があります。
- マイナスな出来事は、繰り返し体験すると気持ちの上で慣れが生じるから説
- 恐ろしい体験を夢で繰り返すことでトラウマが減る説。
- 現在の不安を、過去に体験した夢で再現することで、今に折り合いがつけられる説。
- 夢は現実世界でのストレス対応の訓練をしている説。
追体験で過去の出来事に順応し、柔軟に捉え直し、自己修復能力(レジリエンス)が高まるといった説が多いようです。
説の中でもカリフォルニア大学バークレー校教授で睡眠科学者のマシュー・ウォーカーの説をご紹介します。
睡眠こそ最強の解決策である
マシュー・ウォーカーの説
マシュー・ウォーカーの「夢は夜間セラピー仮説」は脳科学的なアプローチです。
それは夢を見る間のレム睡眠時にだけ、ストレスホルモンの1つであるノルアドレナリンが脳内から一掃されることが根拠になっています。
ノルアドレナリンは興奮や運動したときなどに分泌され、不安も誘発する物質です。
MRIを使った実験により、レム睡眠中=夢を見ている時に「扁桃体」と「海馬」(感情と記憶に関する脳の領域)が再起動することがわかっています。
つまりマシュー・ウォーカーの説は、レム睡眠中(夢を見ているとき)の脳は、ストレスホルモンの存在しない安全な環境の中で、不愉快な記憶を処理しているのではないかというものです。
マシュー・ウォーカーの「夢は夜間セラピー仮説」がもつ2つの重要な役割は。
- 出来事を記憶し、既存の知識と統合して、経験として蓄積する
- 嫌悪感や辛さを伴う記憶を解体する、もしくは忘れる
多くの科学者達が夢は一種の内省でセラピー効果があると考えています。
夢が体験や記憶に行う離れ業
マシュー・ウォーカーさんの説を解説する際、著書の中で例としてあげている体験を解説します。
皆さん過去の辛かった体験を思い出して見てください。
中でも強く記憶に残っているのは感情にまつわる記憶だと気づくはずです。
それと同時に、記憶を思い出しても、それを経験した時ほどの感情の変化が起きないこともわかるはずです。
出来事を忘れたわけではなく、記憶の大部分からマイナスの感情がなくなっているのです。
「夢」は、記憶は残し、悲しみや恐怖、怒りといった感情だけをはぎ取る。
そのおかげで体験から学びながらも、過去の記憶から来るネガティブな感情に押し潰されることなく忘れることができる。
それがマシュー・ウォーカーさんの考えるレム睡眠中に起こる夢セラピーです。
まとめ
映画「君の名は」で、夢から覚めるとお互いへの記憶や思いを忘れてしまう主人公とヒロインが描かれました。
夢の持つ性質を知ると、作品中での夢と感情や記憶の扱いがとても上手だと思い知らされます。
今まで、ただなんとなく見ていた夢が、感情や記憶の整理にこんなにも役に立っていたとは本当に驚きでした。
ただ、鬱症状がある人や、PTSDのかたはレム睡眠の周期が乱れたり、夢を見る睡眠の時間が延び、深い眠りの時間が短くなり疲れを感じたりすることもあるようです。
夢についてはまた色々と記事にしようと思っています。
まとめ
- 夢は日中のネガティブやマイナス感情に影響される
- 夢セラピーは心理治療にも利用されるようになっている
- 夢には過去の体験記憶からネガティブを取り除くような効果がある