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倍返しじゃ済まさない!復讐と正義とシャーデンフロイデ
のび太くんがジャイアンに虐められてドラえもんに泣きつく。
両親の仇を取るために旅に出る。
映画やドラマ、漫画でも復讐は特に取り上げられることの多いテーマです。
復讐劇が観ている人達を気持ち良くさせるのは「人の不幸を喜ぶ感情=シャーデンフロイデ」も関わっています。
復讐の理由が正当で、共感できるほど私達は「この敵は不幸になるのに相応しい」と感じ、復讐された側の不幸を喜びやすくなります。
私たちがどんな相手に復讐したいと感じるのか、復讐とシャーデンフロイデの関わりを解説します。
復讐の始まりは不当な扱い
日常的な復讐でも、映画やドラマ、漫画でも一番良くみられる復讐の元は「不当な扱い」です。

どんな復讐劇もまずは主人公、もしくはあなたが誰かに「不当な扱い」を受けるところからスタートします。
人間は「世界は公正である」という思い込み「公正世界信念」を持っています。
公正世界信念は心理学者メルヴィン・ラーナーによって提唱され、同僚のキャロライン・シモンズと共に行った実験他、多くの実験で確認されているバイアス(思い込み)。公正世界信念を持つ事で、世界に秩序があるように感じ、不快な現実への対処などに役立つ。
なので、自分を苦しめた相手には、自分と同じような苦しみを「公正」に味わって欲しいと感じます。

自分が受けた損害は不公平であり、不当だと感じ、怒り、憎悪、義憤、激昂などの感情を相手に向けます。
相手が直接攻撃してこなくても、劣等感を感じた、自分が劣っているように思わされた場合なども不当な扱いだと感じます。
そしてその感情を執念深く持ち続ける、これが復讐の始まりです。
そしてやっとの思いで復讐を果たし、相手が不幸になったら強いシャーデンフロイデを感じます。
この復讐によるシャーデンフロイデの擬似体験が、映画やドラマ、漫画などで復讐を扱う作品が多く、それに魅了される人が多い理由の一つです。
復讐するのにクリアしないといけない条件
不当な扱いを受けたからといってすぐに復讐できるわけではありません。
心理的に次の二つをクリアすると復讐を行動に移しやすくなります。
- 完全に相手が悪いことになっている
- 復讐が正義と結びついている
映画やドラマなど復讐をテーマにしている作品を見るときは「完全に相手が悪い」状態に描かれている場面が多いことが分かるはずです。
例えば
- 俺のものは俺のも、のび太の物も俺のもの
- めちゃくちゃひどい理不尽ないじめを受ける
- 敵がゾンビや宇宙人、妖怪のような完全にやっつけていい設定
- 敵国に愛する家族を残酷に殺されてしまう
- テロリストのように社会的に容認できない相手
ハリウッド映画などでは、復讐のために相手をとても残酷に始末しておいてからカッコイイ決め台詞を言う場面を見かけます。

このように、相手が完全に悪い、相手には不幸が相応しいと思える状態があると復讐を正当化し実行しやすい心理になります。
また、正当化されているので罪悪感や不道徳感も生まれにくく、よりシャーデンフロイデを感じ安くなります。
↑このブログのシャーデンフロイデ関係の記事を見て頂いてから読むと尚更面白い短編集小説です。心理動作の描写がどの作品も秀逸でとても引き込まれます。
復讐と正義
もう1つ復讐を行いやすくする心理は、復讐と「正義」との結びつきです。
復讐が、自分のため=利己的なものではなく、客観的に見た正義として捉えられる方が、より正当性が増し復讐を行いやすくなります。

復讐を客観的な正義と結びつけることができれば、不正を正す「これは正義であって、仇討ちではない」と倫理観や集団へのメリットの側面が強調されます。
このように個人的な復讐心と正義を結びつけることで強い動機と個人的な満足の両方を得ることができます。
個人的な復讐/復讐は報われるのか
ケビン・カールスミス/ティム・ウィルソン/ダン・ギルバートは復讐の満足度についての実験を行いました。
その結果から「復讐の満足度は過大評価されやすい」ことが示唆されました。
現実世界で実際に復讐を行った場合、自分が罰した人について考え続けさせる=反芻思考状態が免れず、後悔が生まれ満足度が思ったより高くならない可能性があるのです。
アメリカでも正義のためと戦争に参加した多くの兵士が、心に傷をおい、帰国後も心的外傷に苦しむケースがあります。

相手に復讐を行い、カッコイイ決め台詞を吐いて、正義と満足を胸に颯爽と立ち去る。
そんな復讐の爽快なイメージはフィクションの世界の中で、視聴者のシャーデンフロイデのみを強調して作られたものなのかもしれません。
間接的な復讐
先ほど、復讐は思ったより満足度は高くない可能性があると解説しましたが、自分で復讐するような直接的な復讐よりも
目撃証言をするような行為=間接的な復讐の方が満足度が高い可能性があります。

カールスミス達の追試験で示唆されたのは、自ら復讐するよりも、復讐したい相手が苦しむのを目撃する方が罪悪感に囚われることなく復讐の満足度をあげるという可能性です。
罪悪感の低下はシャーデンフロイデの大切な要因でもあり、喜びや満足度をあげます。
さらに間接的な復讐は、相手からのさらなる復讐を受けるリスクも軽減してくれます。
そんな満足度の高い間接的復讐を一番行いやすくなってしまっているのがネット世界なのかも知れません。
自尊心と復讐/SNSの誹謗中傷と匿名性
社会心理学者のキム・ヒソンは復讐心の一つに自尊心の回復があると指摘しています。
他者が自分を全く尊重せずに傷付けようとした行為により低下した自尊心は、復讐でバランスを回復するようです。

このブログではたびたび触れていますが、現代人の自尊心低下にSNSも関わっています。
SNSが強い社会的比較を引き起こし、自尊心を低下させる要因になっているのです。
有名人や成功者と比較して、自分の自尊心が低下すると、復讐心が湧く可能性があります。

しかし、先ほど解説したように直接攻撃はリスクが伴います。
そこで、SNSでの誹謗中傷を間接的にするもの、それが「匿名性」なのかもしれません。
匿名であれば、どんなに相手を傷つけるメッセージを送っても、それは半分自分ではないような心理が生まれ安くなると想像できます。

恐ろしいことですが、SNSで行われる匿名の誹謗中傷は、今までフィクションとして擬似体験するだけで済ませていた復讐による満足やシャーデンフロイデを
自らリスクを犯さずダイレクトに体験できる、無料で手軽なエンターテインメントのように広まっているのかもしれません。
まとめ
復讐とシャーデンフロイデは密接に関わっていますし、私たちの身の回りに溢れています。
ハリウッド映画や、わかりやすいドラマのように復讐とシャーデンフロイデを強調して作られている作品もあれば
ガンダムのように、お互いに理由や別々の正義や価値観があることを現実的に描いている作品もあります。
様々な作品でわかりやすく描かれているほど、復讐は満足を得られない可能性があることは、もう少し皆んなに知られて欲しい事だなと思いました。
まとめ
- 復讐はシャーデンフロイデと結びつき多くの作品で扱われている
- 復讐の始まりは不当な扱、不公平感と執念
- 復讐の相応性と正義との結びつきで復讐しやすい心理が生まれる
- 復讐は思ってるより満足しない
- 間接的な復讐の方が満足度高い
- 復讐は自尊心の低下のバランスをとる仕組みがある
- ネットでの匿名性が間接的な復讐を助長している可能性がある