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お金持ちも幸せになれない!?比較の心理〜優越感と劣等感を加速させる格差社会の影響〜
他者と自分を比較すると、優越感を感じるときもありますが
劣等感に苛まれ、自尊心が傷き、妬みが湧き上がることもあります。
私達は少なからず
「他人が自分をどう見ているかについて不安を感じている」
ようです。
今回は経済学者でノッティンガム大学メディカルスクール名誉教授でもある
リチャード・ウィルキンソンの考えをもとに
社会の格差と他者と自分を比較する心理について解説します。
格差の大きい社会ほど比較する心理が強まる
想像してみてください。
あなたは50階建てのタワーマンションに引越したとします。
そのマンションは階が1つ上るごとに
家賃も上がり部屋のグレードも上がっていく仕組みです。
おそらく、あなたはエレベーターで一緒になった住人が何階のボタンを押すか
すごく気になると思いませんか?
では、あなたが「どの部屋も3万円」の2階建てで、古めのアパートに住んでいたとします。
そのアパートでは「上の階・下の階」程度の区別しか起きません。
このように
ウィルキンソンが膨大な研究データと共に指摘しているのは
豊かでも格差の大きな国では
貧しくても格差の少ない国より
比較の影響で不安症などの精神疾患が多い
という事実です。
それは格差の広がりが「社会的地位への不安」を生み出すからだとしています。
脳には序列を理解するシステムが備わっている
やめたくても他者と自分を比較してしまうのは
人間の脳が序列を理解できるように発達しているからだと考えられています。
序列を理解し、自分の立ち位置にふさわしい行動が取れるような脳の仕組み
=支配行動システム(DBS)が人間に備わっているのです。
このDBSは序列性を持つ他の動物も持っています。
長い進化の過程でDBSは
自分の身分や地位をわきまえる能力を発達させ、どのタイミングで
支配者や、従属者になるかのを上手に判断できるように発達しました。
現代でもDBSは格上や格下の相手にどう対応すべきかや
自分の立場を判断する手助けをしてくれます。
- 勝ち目のない無謀な争いを避ける
- 威嚇や攻撃などで相手を支配する
- 連携、協力、説得などで格下に友好的にする
- 敵対しない代わりに引きこもったり孤立する
しかし、格差の大きな社会では
人間の優劣や階級などが複雑化し
「支配するか従属するかのシステム=DBS」が必要以上に働いてしまいます。
DBSはプライドや恥の感情と関連が深く
各種精神疾患とも関連があることが分かっています。
格差が広がった社会でDBSが過剰に働いてしまうことで
- 他人を支配する認識が強まりすぎる
- 常に支配されている劣等感を感じる
- 支配から逃れたい心理が強まる
などの理由も
不安症や鬱、躁病、自己愛癖などの各種精神疾患が増えてしま要因の1つ
と考えられています。
比較から生まれる劣等感だけでなく
過度な優越感も自己愛的な精神疾患の要因になっているところがポイントだと思います。
SNSでさらに社会的地位を比較し不安が増大する
SNS、特にInstagramの悪影響を報告する研究が近年増えています。
SNSの登場で他者との社会的地位を比較してしまう場面が増えているようです。
SNS上では
SNS上での比較
- 自分より裕福そうな人
- 自分より面白そうな人
- 自分より高いブランドを身に着けている人
- 自分より充実し成功している人
の情報が繰り返し投稿されます。
彼らには自分よりフォロワーが多く、いいねも沢山ついています。
SNSを見て、楽しんだり、満足するのと同時に、脳は彼らと自分を比較し始めます。
DBS(=支配行動システム)を使って
今まで身近な人と自分を比較していた脳は、SNSの普及に伴い
より広い世界の、より多くの人達と自分を比較し劣等感や優越感を感じやすい状況になっています。
比較の頻度・範囲・格差の大きさのいずれも劇的に増加しています。
社会的地位で個人の価値を評価する傾向が高まる
先程のタワーマンションの例のように
私達は格差の大きい社会ピラミッドの中で
自分がどの位置なのか把握しようとDBSの働きも強まります。
ウィルキンソンによると格差が広ることで
人は「社会的地位で他人を評価する傾向」が高まります。
- 年収・役職・貯金額などの経済面
- 家・車・時計・バッグ・ブランド品などの物質的な面
- 人気・地位・名声・フォロワー数・いいねの多さなど知名度
- 若さ・容姿・肉体の美しさなどの外見
- 結婚しているか・パートナーはいるかなどの世間体
- 流行に乗り遅れていないか・トレンドを理解しているかなど
このように「社会的地位」を示すものは様々です。
つまり他人と比較する対象も多岐にわたり、多くの面で他人より上回っていないと
不安を感じるような心理に陥りやすくなっているのです。
ウィルキンソンによると
「私達は自分の気質や個性、成功などを他人の目を通じてしか見られないようになる。
そればかりか、自分の身体を他者と比較し、他人が自分をどう見ているか気になり、
外見の見栄えと個人的な価値とを混同するようにもなる。」
と述べています。
社会的地位が人より劣っていないか
他人からどう思われているかを不安に感じる
=「社会的地位への不安が大きくなる」ようです。
そこから、過度に比較することがやめられなくなり
大きすぎる優越感や劣等感を生み出してしまいます。
社会的評価を恐れることでストレホルモンが爆上がりする
格差や不平等が広がり、社会的地位で人を判断する傾向が強まると
自分の社会的地位も評価の対象となり
他人からの評価が気になり不安感が増します。
昔から、どれくらいストレスが有るかを調べる際には
血中か唾液中の「コルチゾール」というホルモンの量を計測するのが一般的です。
カリフォルニア大学の心理学者サーリー・ディッカーソンとマーガレット・ケメニーは
208件に及ぶ研究結果を分析し「何が最も確実にコルチゾールを高めるか」を分析しました。
その結果、コルチゾールを急激に高めるのは
「自尊心や社会的地位への脅威=社会的評価の脅威を含む行動」
だと述べています。
ディッカーソンとケメニーによると
私達が認識する社会的な価値、名声、地位などの大部分は
他人が私達をどう判断しているかにかかっているから、だそうです。
所得上位の人も社会的地位への不安を感じている
格差の大きい社会では、もし仮に理想を追い求め
社会上位のステータスを手に入れても地位への劣等感はそれほど小さくならない
事が分かっています。
社会心理学者のリチャード・レイティとクリストファー・ウィーラーが行った
31ヶ国3万5634人の成人データーをもとした調査があります。
その結果では当初予想された通り、すべての国において
- 所得階層が下がるほど地位への劣等感が増大する
- 所得上位は、底辺の人達に比べて地位への劣等感が小さい
という結果が出ました。
しかし、不平等な国(ルーマニア・ポーランド・リトアニア・ラトビア・ポルトガル・マケドニアなど)では
所得上位者も含めて全ての所得階層で地位への劣等感が大きくなっていたのです。
つまり、不平等が拡大することで、全ての人が
社会的地位や自分が他人からどう見られているかについて不安を感じる
ようになることが示されました。
例えるなら
「私はお金持ちでも貧乏人でもないけど、もっと金持ちになるべきだと感じる」
「僕はマッチョでもガリガリでもないけど、もっと肉体を美しくしないといけない」
「私は有名でも一般人でもないけど、もっと人気者にならなくちゃ」
のように「社会的評価への脅威」から、何かに急かされるように常に
不安やプレッシャーを感じながら過ごす心理状態が上位層の人達にも多い
ということです。
まさに、タワーマンションに住む、人口上位数%の高所得者になれても
次は同じマンションの住人たちとの比較が始まってしまうので
「社会的評価への脅威」や「社会的地位への不安」は低下しないようです。
さらに上位の地位を維持しないといけないプレッシャー
周囲からの期待なども予想以上に強まるのかも知れません。
まとめ
まとめ
- 社会の格差が広がる
- 格差の中で自分の立ち位置を把握するシステム強化=DBS
- 支配の行動や認識、従属の感覚で精神疾患が増える
- SNSで比較や劣等感を感じる場面が拡大しさらに病む
- 社会的地位で他人を評価するようになる
- 自分の社会的地位を不安に感じストレスホルモンが増える=社会的脅威
- 社会の上位層も劣等感はあまり低下しない