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自己防衛としての自尊心〜なぜ自分の能力を高く見積もりすぎてしまうのか!?
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授リチャード・ウィルキンソンによると
「自分の事を特別だ」と考えた10代のアメリカ人の若者は1950年代には全体の12%でしたが
1980年代になると80%に上昇しています。

30年の間にアメリカの若者の自尊心は高まったのです。
ですが、不思議なことに若者の不安レベルも劇的に高まっているのです。
今回は
「社会の競争に対応するために生み出された防衛的=見せかけの自尊心」
について解説します。
防衛=自分の身を守るための見せかけの自尊心
リチャード・ウィルキンソンの考えは次の通りです。
平等な社会に対して、アメリカのように格差の広がった社会では、
社会的地位(=ステータス)で他者を判断する傾向が高まります。

そのような状況に置かれると、人は「社会的評価の脅威=不安」を感じます。
その不安が、人からの評価や、自分の地位を守るために
「防衛的な自尊心」を生み出すというのです。
格差が見せかけの自尊心を高める流れ
- 不平等な社会では地位を競い合う競争が激しくなる
- 他者からどう見られるか不安が高まる=社会的評価の脅威
- 自尊心を守る必要性が高まる
- 防衛的な自尊心が高まる
防衛的な自尊心は心理学者フロイトが唱える
「心の防衛機制」の一つと考えられることが多いようです。

犬や猫が怒った時毛を逆立てたり
牙を見せ、口を大きく開けるのと同じで
動物が脅威に遭遇した時に自らを大きく見せかけようとするイメージです。
人間もそれらの動物と同様に、社会不安が極限まで高まると
「社会生活=自尊心を守る戦い」と感じる人が出てくる、その結果
- 防衛的な自尊心を持とうとする
- 自己誇示・自己欺瞞などが起こる
- 他者との比較が強まりメンタルを病む
- 引きこもる
などの反応が出てくる。
「豊で格差の大きい国ほど精神疾患や自殺が多い」
と考える研究者がいるのはこのためです。
自尊心は種類が区別されずに計測されてきた
リチャード・ウィルキンソンの言う「見せかけの自尊心」のように、近年では
一口に「自尊心」と言っても様々な種類が有るのではないかという考えが広まっています。

つまり「自尊心」でも健全に機能するものと、不健全に機能するものがあると考えられています。
- 実際の実行力や能力などの評価に基づいた現実的なもの
- 自分の欠点や弱点を受容した上で成り立っている
- 他者との共感や良好な人間関係などを伴う
- 防衛的な面が強く自己誇示(大きく見積もりすぎ)が伴い現実に即していない
- 自分の欠点などを否定して無視したり受け入れない姿勢、うぬぼれ
- 批判に激しく反発し、時には復讐する
- 注目を引こうとする行動や人前での外見、体裁を重要視する
- 自己中心的になり共感が伴わず、過度に自己愛的な振る舞いが増える
長い間、自尊心の標準的な尺度はローゼンバーグ・スケールという質問が採用されてきました。
ローゼンバーグ・スケールは10の質問に「はいorいいえ」で回答する方式ですが
自尊心の種類を区別することが出来ないという欠点があります。

そのため「不安の上昇につれて自尊心も高まっているようにみえる」
という完全なパラドックスが観測されてしまう事態が起きてしまいます。
自尊心の広まりについて動画で解説!
社会的地位が低い人ほど自尊心が高い!?
「防衛的な自尊心」と「健全な自尊心」を区別出来ていなかったことで
次のようなパラドックスも観測されました。
それは、アメリカで社会的地位が低く、差別や偏見を経験する機会の多い
アフリカ系アメリカ人男性は、白人男性に比べ自尊心が高い割合が多いと言うものです。

2011年のワシントン・ポストなどの調査によると
自尊心の強い人は白人男性で59%だったのに対し
黒人男性では72%にも達しました。
しかし、同じ調査では
- 経済・労働
- 健康・衛生
- 治安・犯罪・差別・教育
などの面で黒人男性は、白人男性に比べ遥かに大きな不安を感じていることがわかりました。
黒人男性は社会的な地位の低さや無礼、差別、偏見を経験する機会も多かったと報告しています。

リチャード・ウィルキンソンは、社会的地位の低い人達が、自らの自尊心をできるだけ維持し
自己不信に陥らないように、自尊心を守る必要から
防衛的な意味での自尊心を高めることが予想されると考えています。
まとめ
今回は「自尊心」のなかでも、防衛的な自尊心を生み出す心理について解説しました。
「心の防衛機制」の働きを軸に考えを発展させていった心理学者はフロイトが代表的です。
「自尊心」の防衛的な観点からの考察は心理学ではでは根強いですが
まず自分を偽ることで、相手も偽ることができるとする
どちらかと言うと攻めの姿勢で「偽りの自尊心」を作り出しているとする考えもあります。
次回はハーバード大学のロバートトリバースが提唱している「自尊心や自己欺瞞」に対する考えもご紹介しょうと思います。